30
月神香耶side
「君はそれで自分がどうなってもいいの?」
「総司君…?」
部屋のふすまがすっと開いた。そこには真面目な顔の総司君がいて。
彼は私たちの話を聞いていたらしい。
「てめえいつからそこに居やがった!」
「巡察にはちゃんと行きましたよ。土方さんが『心配かけさせやがって』って言ったあたりからここにいました」
「最初からじゃねえか…」
歳三君は頭を抱えてしまった。
私もびっくりしたよ。気配を感じなかったもの。彼は猫みたいな人だな。
総司君は歳三君に目配せする。
「土方さん」
「はぁ、わかったよ」
歳三君は、総司君に追い立てられるように、文机の書類を軽くまとめて部屋を出て行ってしまった。
総司君は歳三君の気配がこの部屋から遠のくのを確認してから、私の布団の横に腰を下ろす。
……どうしよう、説教の予感しかしないよ。最近多いな。ひとから説教受けるの。
総司君は満を持して口を開いた。
「香耶さんはさ、いま好きな人っている?」
「はい?」
話の方向転換についていけなかった。
鋤? 隙? …スキ!?
「好きって…恋愛感情でってことかな?」
「うん」
「…今はいないよ」
「ゼロ君のことは?」
「まあ…友達だけど」
「じゃあ付き合ってみようよ」
付き合う? 付き合うって……恋人としてとか、そういう意味で?
「ゼロと?」
「なんでそうなるの。僕と!」
総司君と? 総司君とか…
いきなりな話の展開に首をかしげつつも、総司君との未来予想図に思いをはせてみる。
総司君が私に対して好意を持って接してくれていることはなんとなく感じていたが、彼と情けを交わすとかそういったことは今まで考えたことがなかった。
「………」
「遅い。僕があと10数えるうちに決めて」
「え……、え、早くない?」
「じゅー、きゅー、はーち」
「ちょ…柄に手がかかってるよ!? 天国へのカウントダウンこれ!!」
焦って騒ぐと彼は居合いの構えでかちりと鯉口を切った。
さっ…殺気!!
「なな、ろく、ごーよんさんにーいち」
「ぎゃあああまって! つきあう…つきあいます!!!」
「…よかった」
殺気は霧散した。
総司君は極上の笑顔で、冷や汗をかく私に抱きついて押し倒した。
この子のこういう顔は可愛いんだけど…
「じゃあこれからは自分の命を大事にしてね。でないと斬っちゃうから」
「矛盾してるよ!?」
彼の冗談は冗談に聞こえないから面倒だ。
あれ、ほんとに付き合うの?
そしてまたも予告なく、すうっと部屋のふすまが開いた。
あ、お約束の予感…
「香耶さん、お粥を………………失礼しました!!」
ぱん! と開けたふすまをまた閉める千鶴ちゃん。あぁやっぱり。
「あ、ちょ」
「そこに置いといて。僕が香耶さんに食べさせるから」
君が言うとなんかいやらしいな!
千鶴ちゃんの気配も読めないほど気が動転していたらしい。どうやら私もまだまだ修行が足りないようだ。
結局ご機嫌の総司君にお粥を食べさせてもらって、私はまた眠りについた。
背中の痣は、すでに綺麗に消えていた。
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