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土方歳三side
雪村に粥を用意させてる間、俺は香耶に予ねての疑問を問いただすことにした。
「池田屋ではずいぶん暗躍したらしいな」
「隊士にはならないよ」
「まだ何も言ってねえよ」
こいつのおかげでうちから死者を出さなかったのも事実。
たしかにこいつほど腕の立つやつなら、新選組としちゃ咽から手が出るほど欲しいところだ。
だが俺にはこいつの真意が、見えない。
「私は君たちの敵に回ることは絶対にないが、それでも君たちの味方とは言えない」
香耶の言うことは時々まわりくどくて理解しがたいときがある。
「…お前は味方じゃあねえのか?」
「命令に忠実な部下にはなれないということさ。私は私の意思だけで私を動かす。新選組という縦社会の組織にこういった者は必要ないはずだ。組織の根幹を揺るがしてしまう」
「お前…意外とちゃんと物事を考えてるんだな」
「それはどういう意味かな、歳三君。私だってただ面白そうだという理由だけであんなことをしたわけじゃないよ」
「だけ、ってことはただ面白そうだという理由でもあったってことかよ」
そう突っ込んでやると、香耶は頬を膨らませた。
「揚げ足を取らないでよ。私の行動は、必ずしも君たち新選組の望むものにはならない。
例えば………池田屋にいた風間千景君のことはそうだね。君たちは攘夷浪士の味方をする彼を斃したいと考えるだろう。でも私はそうじゃない。私は私情から逃げる彼を追わなかった。
君たちも、彼も、双方救いたい。
ただの理想で、甘い考えだと軽蔑されてもかまわない。だけど私は理想を糧に生きてきた。
私は、この世界で私という存在を確かに知る者、支えとなりうる者、すべてを救いたいんだ!
そのためなら! 邪魔なものは、例え幾万の命だろうが、国ひとつだろうが、薙ぎ払ってみせる!!
……ごめん気分が昂ぶった。物騒な台詞は忘れてくれ」
そう都合よく忘れられるか。
俺は今唐突に理解した。
お前の本質は、とんでもないお人好しで、寂しがりやなやつなんだ。
こいつにとっちゃ、敵も味方も友達で。俺が前に思った通りだったじゃねえか。厄介な。
しかし俺は、珍しく感情をあらわにして叫ぶこいつを、可愛いと思っちまってたんだ。
「だがな、こっちも、はいそうですかと香耶の勝手な行動を黙認するわけにはいかねえ。てめえは今、新選組預かりなんだからな。そのせいで隊士が死ぬようなことになったら、今度こそお前のことを処分しなきゃならなくなる」
「新選組預かりになったのは不可抗力なんだけどね。でも、結果的には今のところこの現況に満足している。だからそれは肝に銘じておくよ。私の野心と新選組のために最善を尽くそう」
どうあってもやめねえんだな。
「てめえは………」
俺が口を開きかけたところで
「君はそれで自分がどうなってもいいの?」
突然 部屋の外から第三者の声が響き渡った。
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