23

月神香耶side



「さて、ここまでが話の前置き。ええと、桝屋同行の目的…は、話したよね」

「そうですね。これまでの話から推察するに、貴女は新選組の…いえ、この世界の未来を知っているということではないのですか?」

「飛び飛びにはね。知っているよ。いや、知っていた、かな。私が知ってる新選組とここの新選組は似て非なるものだった。この世界に籍を置いて十余年、考え続けて得た結論は…」

「貴女が知っているのは、別の…並行世界の新選組のことだった、というわけですね」

「理解が早くて助かるよ。その通り。私はこの先どうなるかなんて責任を持って言えない。だから言わないよ。未来は自分の手で切り開かなくちゃ」

「そして貴女は、独自に私たちを守ろうと考えている?」

「うん」


暫く真摯な視線で見つめ合って、敬助君は息をついた。


「なぜ私にここまで話したんですか?」

「君に味方になってもらうためだよ。この先私がやることにはすべて許可を出し、そのつど近藤さんと歳三君を説得して欲しい」


それから切腹で亡くなるとされている、君の救済法を考えるため。


敬助君は私の提案にしばらく難しい顔をして悩み、すこし逡巡した様子で口を開いた。

「…………貴女のことは信じます。しかしあなたの行動に許可を出すかどうかは、私が決めさせていただきます」

「分かった。それでいいよ」

「それで桝屋同行の件ですが………」


「――総長」

ふすまの外から敬助君を呼ぶ声が聞こえて、私たちの会話は中断された。ふたりの間に一瞬だけ沈黙が流れる。
敬助君はふすまへと視線を移し、声の主の名を呼んだ。

「山崎君、どうしました」

烝君はたしか枡屋の偵察組だったはず。
いやな予感がして、私はおもむろにふすまを勢いよく開けた。


「!」

「烝君、何そのカッコ。可愛い」

あ、心の声がまた漏れてしまった。
いつもと違う服を着た烝君は、私の出し抜けな感想にもつとめて動揺を見せず(耳が赤かったけど)、いつもの淡々とした口調で敬助君に報告を続けた。

桝屋喜右衛門を、巡察途中の一番組が捕らえてきたと。

はぁ。なんてこった。見逃した。
敬助君が含みのある視線をよこしたので、私はわざとらしく肩を落とした。


あの池田屋事件が始まる。


このときの敬助君のたった一度の時渡りが、後に彼を救う鍵になるとは、この時点の私は想像もしていなかった。
そして私たちは、あの時いた城が平行世界で会津戦争ただ中の会津若松城だったことを、終ぞ知ることはなかったのである。

| pagelist |

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -