22
月神香耶side
「………くん、………香耶君!」
はっと目が覚めた。
「…うん? 敬助君………?」
「ええ…」
ここは………うわ、また屋根の上だ。しかもかなり高い位置の。
あたりは真っ暗になっている。
「ここは天守閣の上のようですね」
「うそ!?」
敬助君の言葉に思わず眼下を覗き込む。
よりにもよって城。
「見てください。城下が燃えています」
焦げ臭いにおい。銃声や砲撃の音も聞こえる。
「………戦争…?」
過去…戦国時代だろうか。
「………」
「………」
私たちはしばし言葉を忘れてその光景に見入っていた。
そして敬助君がぽつりと口を開く。
「これは、時を渡ったのですか?」
「……そうかもしれない。でも違うかもしれない」
「違うとは?」
「並行世界かもしれない、ということだよ。
世界とは私たちがさっき居たところだけではない。似たような、もしくはまったく違う世界が、今、この時と同じ時間軸でいくつも存在しているんだ。もしもあの時こうだったら……、そんな、ありえたかもしれない時間軸が無数に枝分かれして存在している」
時渡りの能力で移動する世界は、無限に存在する過去、未来、そして並行世界のいずれかだ。
「そういった並行した世界を移動することを、『次元移動』と呼んでいる。ひとつの世界の過去や未来に渡っただけの『時間移動』とは少し違う。しかも、『次元移動』した上に『時間移動』する場合だってある。
私はこうして、違う世界をいくつも渡って、今の世界にやってきたんだ。
そして、私が使う時渡りの術は、どこに移動するかはまったくのランダム…無作為なのだよ」
「それでは………もしや私たちは帰れないということではないのですか?」
「いや、帰れる。今、私たちはもとの世界に籍を置いている状態でここに来ているからね。
籍、というのは…私たち時空移動者の、存在すべき場所とでも言うか…とにかく人は必ずどこかの世界に籍を置いていなくてはならない。そして、籍を置いた世界が拠点となるんだ。だからもうすぐ………ほら見てごらん」
ぐにゃり、と景色が歪んだ。
「うっ………」
「これは強制送還。籍がない者は、その世界にとって異分子となる。強制的に世界からはじき出され、本来籍がある世界に還されるんだ」
「………なるほど…」
ぐらっと無重力を体感したと同時に、私たちはもといた世界…敬助君の部屋に戻ってきた。
戻ってきて初めて地に足が付いた心地がして、私も敬助君もほっと息をつく。
「まあ…籍が移動先の世界に移るかどうかもランダムだから、ひょっとしたら帰れなくなる可能性もあったんだけどね」
「な、なんて危険な博打を打つんですか! そういうことは行く前に言いなさい!」
「ごめんごめん」
言ったら断られると思って。でも自分の意思で、籍を置くことだってできるんだよ。
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