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沖田総司side



「山崎君、香耶さんに手を出したら斬っちゃうから」

「(沖田組長…顔は笑ってるのに目が笑ってません)ありえないですよ」

「今なにか失礼なことを言われた気がする」

口を尖らせた香耶さんの頭を撫でてから、みんなが作戦会議をしている部屋に入った。
暫く閉じたふすまの前で耳をそばだてていたら、香耶さんと山崎君の会話が聞こえてくる。


『これで千鶴ちゃんもみんなと仲良くなればいいんだけどね』

『雪村君を行かせたのはそのために…?』


ああ、やっぱり君は………


『千鶴ちゃんを日なたに出してあげたいんだよ、私は。………あ、見直した? 私のこと。それじゃ同じく閉じ込められている可哀想な私に定期的な日光浴(という名の外出と昼寝)を認めて欲しいな』

『そこで私欲に走らないでください。(カッコの中も聞こえてますよ)そこはちょっといい話で終わらせてくださいよ。それと昼寝くらい自室でしてください。あなたは自由に出歩きすぎです。どこが可哀想なんですか。監視するほうの身になってください』

『説教をツッコミに昇華させる腕前はさすが大阪人』

『なぜ月神君が俺の出身を知っているのかはあえて聞かないでおきます………』

『なんで。聞いてよ。教えてあげる代わりにその他人行儀な呼び方と敬語をやめなさい』

『だから聞きません!』


………面白いよ。




結局千鶴ちゃんは、土方さんをごまかすって言う平助君に付いて行った。
どう話が転んだのか知らないけど、最後は近藤さんまで一緒になってみんなで猫を追いかけて。

香耶さんの思惑通り、千鶴ちゃんは日なたを駆け回っていたよ。
けれどその場に、香耶さんだけがいなかった。




「香耶さん…? ここにいたの? もうすぐ夕餉の時間だよ」

「はーい」

香耶さんは僕の部屋のふすまを開け放って、座布団を枕にして寝転がりながら本を読んでいた。
こういうところが、山崎君に叱られるんだろうね。女の子なのに行儀悪いって。


「千鶴ちゃん、どうだった?」

「うん、楽しかったって言ってたよ。ところでなんで僕の部屋にいるの」

「総司君たちは好き勝手に私と千鶴ちゃんの部屋に入るくせに、どうしてその逆は駄目なのさ」

あー…まぁ確かに幹部は君たちの部屋に好き勝手に入るよね。その筆頭は僕。


「日ごろからそれを不満に思ってたの?」

「違うよ。逆。私はあれを楽しみにしてる」

僕は寝そべる香耶さんの隣に腰を下ろした。

「じゃあ君がされて嬉しいことを人にもしてあげてるんだ」

「それはちょっと身に過ぎる言い方だね。私は私の享楽を追求しているだけ。歳三くんや烝君には追い出されたけど」

「へぇ…」

それって土方さんや山崎君の部屋にはすでに入ったってこと?

…………。


「総司君?」

「ちょっと、逃げないでよ」

「君が覆いかぶさってくるからだろう。やめてくれたら逃げないよ」

「あのね、香耶さん」

「……この状態でなきゃできない話なの?」

「そうだよ。あのね、山崎君がいつも言ってるんでしょう? ひとりでほいほい男の部屋に入っちゃ駄目だって。こういうことされちゃうんだよ」

言いながら、僕はゆっくりと香耶さんに顔を近づける。
彼女は綺麗な空色の瞳を驚きに見開いた。


「こら! やめ──」

ぺちん。

「いたっ」

いいところで誰かが僕の額を叩いた。


『何やってるんです、沖田さん?』

ちっ。ゼロ君が出てきたか。


「邪魔しないでくれない、ゼロ君。君のその過保護が香耶さんの危機感を薄れさせていくんだよ」

『違います。僕が助けたかったのは香耶さんではなく貴方のほうです』

え、僕?
僕が動きを止めてる間に、下から腹に足をかけられて。


「だああああああぃ!!!」

「うっ わ!?」

それはそれは綺麗な巴投げで庭に押っ放り出された。通りがかりの土方さんたちの目の前でって、お約束つきでね。


「総司、お前何やってんだ」

眉間にしわを寄せる土方さんの前で、香耶さんが部屋のふすまから顔をのぞかせ空笑いする。

「ごめんね、総司君。つい」

『………はぁ』

ゼロ君が大げさにため息をついてこめかみを押さえていた。
だから言ったのにって? もうほっといてよ。

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