沖田総司side




「近藤さんが……処刑された!?」


その知らせを受けた日も、僕はいつもの家で、香耶さんといつものように暮らしていた。
のほほんと、戦とは遠いところで、暮らしていたんだ。


報せが書かれた手紙を握りしめて、責めるのは。


「総司君」

「……、なに」


満足に動けもしない、自分なのに。


「今するべきことは、誰かを責めることじゃない」

「君になにがわかるっていうのさ!」


こんなところで、死にかけてる場合じゃないのに。
いても立ってもいられなくなって、部屋の、枕元に立てかけてある刀を手に取る。
柄を握り、鞘を払って、鈍く輝く刀身を突きつけた。


静かな瞳で僕を見つめる香耶さんに。




息が上がる。
なのに、香耶さんはなにを考えているか分からない瞳で、僕を見つめ続けた。




「行くのなら、止めはしないよ」


なんで、香耶さんは。




僕が近藤さんを追いかけて、ここを出て行っている間に、香耶さんは独りきりで死んでしまうのかもしれない。


決して多くはないはずの、僕が執着するするものは、いつも僕の手から零れ落ちる。


近藤さん。新選組。
戦うこと。誰かから信頼されること。
初めて愛したひと。




いま、ここで香耶さんを斬ったら、彼女は僕のものになるのだろうか。
永遠に。




「したいようにしなさい」

「っ香耶、」


僕の心を読んだかのような言葉に、心臓が跳ねた。


「後ろは振り返らないで」


息をつぐようにまぶたを閉じ、もう一度変わらない瞳で僕を貫いた。


「幸せになりなさい」


手が、震えた。
僕の幸せは、目のまえにあるのに。澄んだ目線で、僕を見ているのに。




「……僕は、新選組を追う」


選んだのは。


「一緒に、来て」

「総司君……」

「僕の幸せを願うなら、僕についてきて」


君を幸せにしてあげる、とは、とても約束できる状況じゃないけれど。
僕の選択に、香耶さんは困ったように笑った。



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