沖田総司side




ふすまの向こうは香耶さんの部屋だ。


その香耶さんの部屋から、こんこんと咳が聞こえる。彼女は最初の頃より咳が増えたかもしれない。
僕と言う居候がいるためか、それが負担になってるのかもしれない。


僕はそっとふすまを開けた。


「……香耶さん、」

「っ……ごめん、起こしたかな」


寝巻きの袖が、血に濡れていた。
それを見て、胸がどきっとした。だって、香耶さんの血を見るのは初めてだったから。


「大丈……」


あ、僕も咳が出そうだ。
ふたりしてしばらく止まらない咳にさいなまれた。


小柄な香耶さんが小さく身体を丸めて咳をするのは、なんだか可哀想。
僕はぐっと咳を我慢して、這うように香耶さんのそばに寄る。揺れる体を抱きしめて、少しでも楽になるように背中をさすった。


「ふ、ありがと……」


涙が滲む顔を僕の肩に押し付ける。


あったかい。


僕は、幸運だと思う。
食事をするのも、咳をするのも。
ふたりだから。寂しくなくて。



今まで独りきりだった香耶さんにも、そう、思って欲しくて。



「寝なよ。こうしててあげるから」



このひとにありったけの優しさをあげたい。
僕と一緒にいると幸せだと、感じて欲しい。


この感情がなんなのか。僕は知ってる。もう子供じゃないから。




優しく抱きしめて背中を撫でているうちに、いつの間にか眠ってしまった香耶さんを、そっと布団に横たえる。
そのまま僕も香耶さんの布団に潜り込んだ。


「健康な身体で出会っていたら、こんな感情は生まれなかったのかな……」


こんな身体じゃなかったら、香耶さんに出会うことも無かったんだろうけど。


僕にはやるべきことがある。
ここにいたって、戦場に出たって、どちらにしても死ぬ運命にあるのなら……。


でも、香耶さんをひとりにしたくない。僕が、香耶さんと離れたくないんだ。


香耶さん……僕に行かないでって言ってよ。
そうしたら、僕は。



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