沖田総司side




香耶さんは僕に優しい。

でも、その優しさを向けられるのは、僕だけじゃなくて。
香耶さんは誰にでも優しいんだ。




「みゃー」

縁側でだらだらしてるところに、黒猫がやってきた。

「みゃー」

まるで僕のことなんか見えていないみたいに、屋内に向かって鳴き続ける猫。

「おいで」

「み゛ゃ!!」


手の甲をひっかかれた。
意外に強い攻撃力に、僕はおもわず刀に手を伸ばす。

「…へえ、僕に怪我を負わせるなんていい度胸じゃない」

「みゃー!!」

長刀を半分ほど抜きかけたところで、僕の後頭部を誰かがぺしりとはたいた。

「こーら。動物虐待反対」

「いたっ……香耶さん?」

「にゃー!!」

黒猫は香耶さんの懐に飛び込んだ。
彼女も慣れた様子で黒猫を受け止め、優しい顔でいらっしゃい、なんて言ってる。
僕は自分でも気付かない間に眉をひそめていた。

「どうしたの総司君。難しい顔して」

「べつに…その猫はなに?よく来るの?」

僕の隣に腰掛ける彼女を目で追いながら話題を変える。
彼女はどこから用意したのか、煮干を手にいっぱい持って、その猫にあげた。
黒猫は香耶さんの膝の上でごろごろとご満悦そうだ。僕的には気に入らないけど。

「うん。かわいいでしょ。『ちぃ』って名前なんだ」

「ちぃ…ね」

つまんない。

彼女の視線は黒猫のちぃに注がれていて。
その優しく背をなでる白い手が、僕以外に触れることが。


「ねえ、僕にもやってよ」

「?」

香耶さんの瞳がこちらを向いた。
あ、かわいい。そのきょとんとした顔。

僕は、猫の背に乗せてられている彼女の手を取ってみた。
黒猫ちぃは、ぴくりと顔を上げる。その様子がなんとなく不機嫌な気がして、僕の心中に優越感がもたげてきた。

「よしよし」

香耶さんは反対の手で僕の頭をゆるゆると撫でる。
ちぃは逃げるように香耶さんの膝から降りていて、僕はゆっくり誘われるように、彼女の膝に頭を置いて寝転んだ。

「香耶さんの膝はあげないよ」

「にゃー…」

離さない、と言うように彼女の腰に腕を回すと、上からくすりと吹き出す気配。
香耶さんは僕の手を引き寄せて、さっき引っ掻かれたところにそっと唇を寄せた。


「じゃあ、君にあげる」


どくり。
胸の奥が高鳴った。

目を見開く僕の顔を見て、香耶さんはますます笑みを深くする。

「私の膝。いつでも君が使っていいよ」

「………っうん」

赤くなった頬を見られたくなくて、寝返りをうって。
僕は、ごまかすように咳をした。



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