五
月神香耶side
『香耶君へ
身体の調子はどうだね? 君のことだからそれほど心配はしていないが』
「おいおい、そんなこと言ってると私いつか孤独死しちゃうよ?」
『私はいろいろあって、今大阪にいるんだが、江戸に戻ったら労咳患者をひとり連れて行くから準備しておいてくれ。彼の名は沖田総司という。では頼んだよ』
「え、おわり?……松本さんんん!!?」
私が手紙を握り締めながら絶叫したのは言うまでもない。
文久三年、江戸幕府が武芸にすぐれた浪士を集め編制した警備隊『新選組』。
彼らは京都守護職の配下で、京の治安維持、特に攘夷派志士の弾圧に活動した。
沖田総司はその新選組で一番組組長および撃剣師範をつとめ、剣の腕は新選組随一であったと言われている。
私がこの時代に渡ってきて十年以上経っているが、こんなに有名な歴史上の人物に会うのは久しぶりだ。
私の生まれは二十一世紀の日本。いわゆるタイムトラベルとかトリップとかいうやつで。
そして幸か不幸かこの地で労咳を発症し、いろいろはしょるが数年後、松本良順に出会い、こうしてひっそりと暮らしている。
「はぁ」
でもまあ、これもめぐり合わせ。
私に出来ることをしてあげよう。
「まずは……掃除だな」
よし、と私はたすき掛けして部屋を出たのだった。
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