18

月神香耶side



「月神君!! 貴女という人は毎回毎回………」

にゃー!


烝君が青筋を立てて私の昼寝を妨害してきた。
ああ、私と戯れていた猫がどこかに行ってしまったじゃないか。行火(あんか)代わりにしてたのに。

「よくここが分かったね、烝君。毎回場所を変えてるのに」

ここは八木邸の屋根。
正直屋根瓦の上というのは寝心地がよくない。しかし私の監視を命じられているのだろう監察方の山崎烝という人物は、私の昼寝のたびにやってきては部屋に戻れといちいちうるさい。

あるときは縁側で、あるときは木の上で、あるときは歳三君の部屋で。(あの時はとしぞー君にまで説教を受けた。途中で逃げ出したけど)
もはや私たちの意地と昼寝をかけた鬼ごっこみたいになっている。次は烝君の部屋で寝てやろうか。

「駄目ですよ! 捕虜としての…いや最低でも女性としての自覚を持ちなさいと言ってるんです!」

おや、心の声が漏れてしまったかな。まったくうるさい小舅め。

「私の辞書に貞淑、従順という言葉は存在しない。残念ながら私にはそういったものが欠落しているようだ」

「開き直らないでください!!」

うん、こうして烝君と押し問答を繰り返してるのも面白いけれど、彼も忙しい身だ。仕方ない。

「わかったよ。ここは貸しにして烝君の言うことを聞こう。この貸しはいつか返してもらうことにして、今は千鶴ちゃんとお茶でも飲んでくる」

「………そのままおとなしくしててくださいよ…」

心底疲れたような彼の声を背中で聞きながら、私は屋根から飛び降りた。




私が新選組の屯所にきて三月(みつき)は経った。

惣次郎君…もとい総司君を筆頭に幹部のみんなは頻繁に私に会いに来てくれるけれど、一般隊士達からの視線は未だ不審者を見るようなものだ。

千鶴ちゃんのように袴にしろと言われたが、何度やっても袴の着方が覚えられなくて諦めた。もとの創作着物で過ごしている。大体、最初から私のことは女だと広まってしまっていたらしい。前々から総司君や一君が私の話をしていたんだってさ。私は顔が売れているし、目立つからね。この忌々しい色の髪のせいで、間違えようがないもの。

あーあ、歳三君みたいな髪だったらよかったのにな。

千鶴ちゃんは相変わらずほとんど部屋から出ていない。気晴らしにお菓子でも買ってきてあげたいところだが、私も監視の目が厳しい昼間は屯所から出るのを控えてあげていた。(山崎side:そもそも貴女も部屋から出てはいけないはずですが)

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