16
土方歳三side
「月神殿………いや香耶君じゃないか!!」
「おとうさーん!!!」
感動の再会さながら。
香耶は近藤さんに飛びついた。
ほほえましい画だ。
つうかお父さんて。おまえへたすりゃ近藤さんと同い年くらいだろ。
ほら、他のやつらがぽかんとしてる。
「土方君、どういうことです?」
山南さんに笑顔で説明を求められて、俺はばつの悪い顔で目を逸らした。
「…知り合いだ。試衛館にいたころのな」
皆が食客となる以前に訪ねてきたことがあったのだと言えば、山南さんは納得した。
「なるほど。しかしそれだけで処遇に手心をくわえることはできないでしょう。間者の可能性も捨てきれません」
「………」
確かに身元がはっきりしねえし、最もな言い分だが…………なぜだろう、香耶がどこかの間者とかぜってぇありえねえと思ってしまうのは。あいつはどこかの藩だとか党だとかのしがらみとは無縁の場所で生きてる。俺らが敵だ味方だといってるやつら全員、友達、みたいなことになっていそうな。
もしかして化かされてるのは俺のほうなのか?
「じゃあさ、あいつもここに置けばいいじゃん」
「そうだぜ。何よりあんなに近藤さんと総司が嬉しそうにしてるし。あれで彼女を始末するなんてできねえだろ」
平助や新八の言葉に総司も笑顔でうなずいた。
「僕もそれに賛成。なんなら僕の小姓にくださいよ」
だからてめえは下心が丸見えなんだよ!!
「副長、香耶は俺の剣戟の師でもあります。約束を果たすためにも、ぜひ俺の小姓に」
斎藤まで……。約束って何だ。果し合いの約束でもしてんのか。
「ったく…どいつもこいつも………いいか! 香耶はしばらく組長・幹部の小姓だ。手は出すなよ。裸にされて庭木に吊り上げられるからな」
全員、は? って顔してるが、斎藤だけは何か思い当たることがあったのか微妙な顔をしていた。
香耶を怒らすのは絶対にやめたほうがいい。
「良かったな、香耶君」
「そうだね。始末するとか言われたら全力で京から逃げださなければならないところだったよ」
こいつなら逃げ切る気がする。
「お前は雪村の部屋に移れ。それからお前の腰ぎんちゃくはどうした? あいつにも話を聞かなきゃなんねえ」
「ゼロのことを言ってるんだったら呼んであげてもいいけど、彼は昨日無理させてしまったからね。ここで休ませてるんだ」
いいながら親指で自分の胸をとんとん叩いた。
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