10
雪村千鶴side
「おい、そこの小僧」
「ガキのくせに、いいもん持ってんじゃねえか」
「小僧には過ぎたもんだろ?」
「寄越せ。国のために俺たぎゃぶっ」
がづっ!!
おかしな言葉の切り方をした浪士は、次の瞬間には私の視界から消えていた。
「ハイ君たち。怖がる女の子を囲んで何してるのかな?」
横手から現れたこの銀髪の綺麗な女性が、浪士のこめかみに膝蹴りを入れたらしい。男は地面に滑り込んで、そのままぴくりとも動かなくなった。
一瞬場が唖然となったが、残った浪士たちがいっせいに色めき立った。
「この女、何しやがる!!」
女性は未だ呆然としたままの私の手を掴んで
「行くよ」
「え…え!?」
その場から走り出した。
「待ちやがれ!」
「しつこいな」
「はぁっはぁっ」
こんなに走ってるのに女性は息ひとつ乱れていない。それどころか肩で息をしながら走る私を引っ張り続けてくれた。
狭い路地に入り、後ろに浪士たちが追いついていないのを確認すると、女性は私を家と家の間に押し込んで隠した。私が木の板の影に隠れるのを確認して、彼女は出て行こうとする。
私はあわてて引き止めた。
「あ、あのっ…待ってください! 一緒に隠れたほうが、いいです」
「私の心配は…あれ? 君は………」
彼女は何かに気付いたみたいに私の顔を凝視した。
「ひょっとして昔、東の隠れ里に住んでなかったかな?」
「え…?」
「ぎゃああああああああっ!!!」
「「!?」」
誰かの悲鳴が響き渡って会話は中断された。
← | pagelist | →