09
土方歳三side
結局香耶は試衛館にそれ以上とどまることはなく、惣次との勝負があった翌日にはここを発つことになった。
ゼロの姿はなかったが、影から香耶の護衛をしてるって言ってたから、おそらくここの様子もどこかで隠れて見てるんだろう。
「もうちょっといればいいのに」
すっかり香耶に懐いちまった惣次が、きらきらの上目遣いで引き止めるが…
「………そうす…そうしたいのはやまやまだけど」
香耶は視線をそらしてかわしていた。
いま『そうする』って言いかけたぞ。
「京にいる友達がいいかげん顔見せろってうるさいからね」
京か………
「それじゃ暫く会えねぇんだろうな…」
「そうだね。そのあと西のほうにも足をのばしてみるつもりだからね。数年は会えないかもしれないよ」
「「数年!?」」
俺と惣次の声が重なった。
年単位かよ!
頭を抱えた俺たちに、香耶は意味深な笑みを向ける。
「私がこの世界に籍をおいてるかぎり、君たちの事は決して忘れないよ。
そして忘れないでいるかぎり、それぞれの道は繋がっていられる」
いまいち意味の分からないことを告げられて、俺と惣次は思わず顔を見合わせた。
香耶はそんな俺たちの様子を見て、息ぴったりだよ君たち、なんて言いながらひとしきり笑った後、
「つまりは、また会えるさ、ってことだよ」
そう言ってくるりと門に背を向け、俺たちから離れていった。
「また来てね 香耶さん!」
そんな惣次の声に軽く手を振って応えていた。
しかし次に俺たちが香耶と再会するまで、およそ十年もの歳月を待たなければならない。
再会の舞台は京。
香耶との再会が、俺たちの暗澹たる運命を切り開く鍵になる。
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