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雪村千鶴side



木枯らしの吹く、初秋のある日のこと。
沖田さん率いる一番組の隊士さん方と共に、巡察に出ていると。
だんだら羽織を身につけた私たちに臆することなく駆け寄ってくる人影があった。

「千鶴ちゃん!」

「あれっ……お千ちゃん?」

ふり向くと、その声の主はお千ちゃんだった。
彼女の姿を目にして沖田さんが首をかしげる。

「あれ? 何その子。知り合い?」

「あっ、えっと、知り合いっていうか……」

「前に、浪士にからまれてたところを助けてもらったんです。ねえねえ、千鶴ちゃん。よかったら、お団子ご馳走させてくれない? この間のお礼に」

「えっ? でも、今は巡察の途中で……」

私は、隊士さん方の先頭に立っている沖田さんをちらりと見上げる。
彼は真意の見えないまなざしでお千ちゃんを見つめていたけど、やがて……

「行ってきたらいいんじゃない? たまには、息抜きも必要でしょ」


こうして私は、お千ちゃんと共に茶店の縁台に腰を下ろすことになった。


「そういうことだったんだ。千鶴ちゃん、私と同い年くらいなのに苦労してるのね……」

「………」

お千ちゃんの言葉に、私は無言でうつむく。

「あなたのお父さんと同一人物かはわからないけど……最近、怪しい連中が島原でよく会合を開いてるらしいって噂を耳にするの。その中に、剃髪の男性がまぎれてたって聞いたことがあるわ」

「──!」

もし父様がその人たちと接触を持って、何か良からぬことを企んでるとしたら……。
何とかして止めなくちゃ。

「もし島原に行くつもりなら、いつでも声をかけて。あそこには、顔が利くから、きっと力になれると思うわ」

「……うん。ありがとう、お千ちゃん」

とりあえず屯所に戻ったら、幹部の皆さんに報告しなきゃ。




私の報告に、近藤さんや土方さんは重くうなずいた。

「……なるほど、話はわかった。報告ご苦労、雪村君」

「俺たちも、胡散臭え連中が島原界隈をうろうろしてるらしいって情報はつかんでた。ただ、島原は場所の性質上、どうしても御用改めがしにくくてな。……証拠もねえのに、怪しい客を片っ端からふん捕まえる訳にもいかねえし。どうしたもんか、対処に悩んでたとこだ」

土方さんの言葉に、幹部のみんなも難しい顔をする。

「なあ土方さん。こういうのはどうだ?」

「何だ? 新八。いい考えでもあんのか?」

「俺がこの肉体美で、その怪しい奴らの座敷に呼ばれた姐ちゃんを惚れさせて、情報を引き出すんだよ!」

「……てめえなんぞの話を真面目に聞こうとした俺が馬鹿だった」

「芸者のお姐さんを惚れさせるなんてできるはずねえじゃん。いつも散々金遣わされた挙句、袖にされてるくせに」

「……そんなの、何十年かかると思ってんだよ。芸者ってのは、ただでさえ口が固えのに」

土方さんに加え平助君や原田さんまで畳みかけるが、そんな様子に香耶さんは笑って口を開いた。

「新八君はけっこう男前だと思うけどな」

「だよな! 聞いただろ、香耶は俺に惚れてるってよ!」

「香耶さんは惚れてるとまでは言ってません」

「まあ、実質そんな面倒な真似するより、芸者に化けて、客から直接情報を引き出すほうが確実だと思うけどね」

「なるほど、確かにそうだが……一体誰がそんな役目を請け負うんだ? 新選組には、揚屋に潜入できる女性など──」

そういいかける近藤さんを前に、私はおずおずと手を挙げる。

「あの……私では駄目でしょうか?」

「君が? しかし、嫁入り前の若い女性にそんなことをさせるわけには──」

「は、反対だよ、絶対反対! 島原の客って、酔っ払いばっかだぞ! 何されるかわかんねえって」

「……千鶴ちゃんが行くなら、私も行くよ」

「え、香耶さんも?」

「おまえらがそんな真似する必要なんざねえよ。万が一のことがあったらどうするんだ」

土方さんの言葉に、私は一瞬黙り込む。もしものことがあれば、香耶さんにも、新選組の皆さんにも迷惑をかけることになるかもしれない。
それでも、行動を起こさなくちゃ、なんの問題も解決しないから。

「……私、やってみます」

「決まりだね」

不適に笑う香耶さんに、私もひとつうなずいた。

「島原のことをよくご存知の方を知ってますから……危ないことにはならないと思いますし」

私は早速、お千ちゃんに連絡をとることにした。

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