04

土方歳三side



月神香耶は、腰まである銀髪に空色の瞳を持つ美しい女だった。

俺がそいつに始めて会ったのは、俺はまだ商家で奉公しているころだった。つまんねぇ喧嘩を買っちまった俺は、報復にぼこぼこにされて、なさけねぇことに道に行き倒れているところを香耶に拾われて介抱された。

そのころの香耶は日ノ本中を旅していると言っていた。
こんな細腕の女が、と心配になったものだが、俺は香耶が刀を抜いたのを一度だけ見る機会が合った。



宿の近くで、地上げ屋が雇ったごろつきが茶屋の娘とその父親を斬り捨てようとしたのを見て、ちょうどその茶屋で間食していた香耶が団子をほおばったまま店先に飛び出したことがあった。
俺はというと、

「としぞーくん、よろしこ」

と、熱い茶の入った湯飲みをいきなり香耶から押し付けられて出遅れた。

その間に彼女は野次馬の壁をすり抜けて、茶屋の娘と刀を抜いたごろつき三人の間に割って入り、ひらひらと瞬く間にごろつきどもを斬り捨てていた。
その舞のような剣筋に、俺はらしくもなく呆然と見入ってしまったのだった。



そんなこんなで結局香耶は、俺が実家に帰りつくまでついてきた。
手当ての恩があるとはいえ、ていのいい宿代わりにされていたような気もするが。

その後香耶はふらりとどこかへ消えたり現れたりしながら、俺んちで飯を食ったり 他流試合先の道場で飯を食ってたり 俺の行商先で飯を食ってるとこに居合わせたり(そんでたかられたり)と、何の因果かちょくちょく一緒に飯を食ってるうちに、いつの間にか飲み友達みてぇになっちまったってわけだ。
俺は飲まずに泥酔してたあいつの付き添いみたいになってたが。あいつは適量って言葉を知らねえからな。



そいつが近藤さんの知り合いだったていうことを俺は今回はじめて知った。惣次や他のやつらが香耶のこと知らねえってことは、試衛館に来たのは初めてだったんだろう。
門人達に香耶のことを知られるのは、なんとなく気に入らなかったが、近藤さんがまるで生き別れた妹と再会したみたいに喜んでいたからよしとしよう。

ただひとつ気になったのは、惣次の香耶に対するあの視線だった。獲物を見つけたみてぇな顔で終始香耶から目を離さなかった。いやな予感がする。

そう思って惣次の姿を捜しながら考えごとをしていたら、刀と刀がぶつかる金属音が耳に届いて、俺のいやな予感が的中したことを知ったのだった。

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