ピンポーンと、家のインターホンがなった。引越しの準備で段ボールに荷物をまとめていた照がそれに腰を上げた。
「はーい」
今両親は出かけている。誰だろうと思いながら照が出ると、少々不格好なラッピングが施された箱を二つ持った狗朗がいた。
「クロじゃないか。どうしたんだ?いつもより早いな。」
「今日誕生日だろう。あとバレンタインのお返しだ。受験でそれどころではなかったからな!」
そう言いながら、笑顔で照にかわいくラッピングされた箱を差し出す。
そういえば、と今日が誕生日であることを思い出す。それにホワイトデーも狗朗からは何ももらっていなかった。
「やっぱり忘れてたんだな。」
「おっしゃる通りで……。」
ムッとした表情でそう言われて、照は少しの罪悪感を感じた。
しかし、今年は受験の為バレンタインは送っていない。
その旨を伝えると、
「……受験の慰労も兼ねている。」
顔を若干赤らめて言った。この弟弟子は本当にかわいい。思わず抱きしめたらプレゼントが潰れそうになった。危なかった。
受け取った箱を開けると、一つにはクッキー、もう一つには今時珍しい指無し手袋に袋が付いたのが入っていた。この手袋は普通の物と違い指無しと有りので使い分けが出来る為、年中手袋装着の照にとっては重要な物だった。
「ありがとうクロ!この手袋よく見つけたねえ!」
「手作りだ!」
「……本当に?」
コクンと狗朗が首をふる。
感激して、涙が出た。
「なっ、照どうした、嫌だったか!?」
「ちが、嬉し、いから」
幸せすぎた。最近いいことが起こりすぎて不安になるレベルだ。一人暮らしへの不安もどこかへ飛んでいった。
(私は、この弟分に何回も助けられた。)
「クロ。」
「何だ?」
「ホントに、本当に、ありがとう。クロみたいな弟弟子がいて、本当に嬉しいよ。」
「……そうか。」
その時狗朗の目に哀歓の色が過ぎったのに照は気づけなかった。
「照が嬉しいなら、よかった。」
狗朗は笑ってそう言った。
そして、狗朗が照の家に来ることは無くなった。
*
「本当にいいのかい、クロ。」
「……申し訳ありません、一言様。」
「……そう。」
その数日後。
照は長年暮らした家を離れ、都会へと旅立って行った。
見送りに行った一言様から聞いた話だったが、俺が来なくて残念がっていたらしい。
結局、俺はあの日から照に会いに行くことはできなかった。
20130311
20130811 修正
20131224 修正