貴志部




「私さ、実は大河の事……好きじゃないんだ」
嘘だけど……嫌、嘘なのか?実際問題、好きの度合いが大きくて、好きって言葉じゃ足りない気がする。そう思うとやっぱり嘘じゃないのかもしれない。どちらかというと、木戸川サッカー部の中でも生真面目な部類である大河は気持ちいいくらいに引っ掛かってくれたようで、「え、え?!」と俺の聞き間違いじゃないよね?!とらしくなく声を張り上げた。勿論、大河の耳が悪いわけじゃないので「うん、聞き間違いなんかじゃないよ」って言ってやった。私の滑舌は悪い方ではないので、二度反復するように言ってやると理解した様にしょげた。



「……そ、そっか」「あの、大河」予想以上のへこみ具合に、予定より早く嘘だよって言おうとしたのだが、手のひらを私にむけて制した。「いや、いいんだ……。もう言わなくていい。気にしないでくれ……。寧ろ、今までよく俺と付き合っていたね……好きでもないのに」驚きの後ろ向きだ。こんなにネガティブな大河初めて見たかもしれない。普段は部活のキャプテンとしての凛々しい姿ばかりが目に入るので、自然と大河のイメージも凛々しくなっていたのだが。色々と改めるべき時期に差し掛かっているのかもしれない。ブラブラ、椅子の下で足を遊ばせる。
「あのさー、大河。嘘だよ。嘘じゃないけど」
「どっちなんだ?!」



目の前で当惑している大河を見てああ、流石にややこしかったかーと自省した。
「うーん、とね。私、大河の事、好きじゃ足りないくらい好きだから。ある意味嘘じゃないよ」
もう、言わせないでよ!恥ずかしいなぁ。
「!……そ、それはそれで、恥ずかしいけど。嫌われてないってわかって安心した。でも、なんで急に……」
大河が時たま見せる、悩ましげな照れているような色々な物が入り混じったような表情を見せた。割合的には羞恥が八割を占めているかもしれないけど。もう、心に負った傷は大体全快したようだった。「エイプリルフールだよ」大河の疑問に答えると「……成る程」あまり浸透していなかったから、気が付かなかったよってそこで、漸くいつもの笑顔を作って見せた。



「俺も、名前のこと好きじゃ足りないくらい、……その、好きだよ」
流石に、前置きなしじゃ驚くし傷ついたけれどね。最後に付け足して、やっぱり言った後に照れが追い付いたようで、紅潮した頬を隠すように褐色の手のひらで覆った。ああ、それにしてもエイプリルフールはいい日だなぁ。あんなに饒舌に愛の言葉を口にする大河なんて、そうそう無いから。



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