冴渡




「私さ、読矢君好きかも」
マジな目をしながらの渾身の大芝居。……にも関わらず相変わらず参考書を見ていて、顔をあげる様子の無い優一郎。数秒の間の後にようやく言葉を発したかと思ったら「……へぇ」という、随分と素っ気ない返事だった。
「冷たいっ!まるで愛を感じない!」
これでも、一応男女の間柄だというのにもかかわらずまるで俺には関係が無いし、興味ありませんと言わんばかりの酷い返事だった。流石のこれには私も驚きとショックを隠せない。私が誰を好いていても、優一郎には関係ないのだろうか。そんなのあんまりだ!随分と酷すぎるではないか。



「うぅ、」
「……で?用事はそれだけかい?くだらないこと言っていないで君も、勉強したらどうだい」
バランスを失い倒れていた、参考書の山をちらりと一度だけ見て示唆する。膨れっ面の私は無視ですか、そうですか。優一郎にとって私は参考書よりも、ランクが下なんですか。よーくわかりました!もう勝手にすればいいんだ!
「もう、帰る!」
「はぁ、君は何を怒っているんだ」
ようやく、参考書から顔をあげた優一郎がやや疲れた様な面持ちで眼鏡を指先で持ち上げた。優一郎が何もわからないのだというのならば女心と言うものを知らな過ぎる。知っていたらそれはそれである意味怖いけれど。少しくらい理解してくれてもいいのに。それとも、あれかな?女心を知るくらいなら少しでも知識をつけたいってことかな?ああ、もうね、嫌味の一つや二つ言いたくなってしまうよ。心が荒む。



「私の事どうでもいいんでしょう」
「君は馬鹿だろ。俺が君の嘘を見抜けないとでも思っているのか?だとしたら俺の方が怒りたいくらいだね」
そういって溜息を吐いて、もうこの話は終わりでいいかい?とか自分で勝手に話をまとめて切り上げようとした。その手には未だに、参考書の読んでいたページをキープしていてさっさと参考書に目を通したいと言った風だった。
「え、なんで嘘だってわかるの?」
「なんで、って……君と俺の今回のテストの順位を考えてみたらわかるんじゃない?」
厭味ったらしく、順位の話を持ち出したので私は嫌になった。はいはい、どうせ私の方が優一郎よりも馬鹿ですよ。
「……そこで順位の話を持ち出すのはどうかと思うんだけど」
一応、私だって栄都の生徒だから他校の生徒よりは恐らく勉強量が多少多いかもしれない。けれど栄都の中から見ればどちらかというと平均よりやや下だ。だから、この話はあまり持ち出してほしくないのだ。劣等感を刺激されるから。
「名前の考えくらいお見通しだ。ああ、でもね」



名前。俺そういう嘘。大嫌いなんだよ。馬鹿みたいに見えるし滑稽だしね。でも……嘘でも、俺以外の男のこと好きだとか言うのはやめたほうがいいよ。少しでも自分の身を案じるのならばね。眼鏡の向こうの瞳が獰猛な肉食の獣の瞳をしていた。



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