+10亜風炉




大人になっていつの間にか、監督に就任していたらしい照美と久々に会う予定を取り付けた。この日がなんか都合よくエイプリルフールだったものなんで当日に「私、このたび結婚することになりました!」勢いづいた言葉に任せて、そんなこと言った。勿論、そんな予定はここ数年は間違いなくないと思う。というか……一生独り身だったりして。あ、流石に笑えないなぁ。寂しく一人で孤独死なんて笑え無いものね。
「ぶーっ!!誰とだい?!」
美しい顔を崩して、吹き出した。エンジン音が継続的に続いている。目的地まで随分とまだ、距離があるというのに、驚いたのだろうか急にアクセルを思い切り踏むのでこちらの寿命が縮まりかけた。幸いにもぶつかったり、轢いたり最悪な事故につながらなかったので幸いだ。場所を考えるべきだったと言った後に思ったのだけど、此処まで焦る理由がわからずに、首を傾げた。



「え、えっとー、ほら、中学の時の一つ先輩だった平良さん、と!」
相手の人まで考えていなかったので、焦りながら咄嗟にそう言ったのだが照美は信じたのか神妙な顔つきで「……平良とかい?僕と食事になんか出て、平気なのかい?あれは相当嫉妬深い。性格もあの時からあまり、改善していないんだろう?」と不機嫌さと不安が入り混じった声色でそうに言った。嫌々、平良さんとはもう何年かあっていない。前に街中で偶然、ばったり会ったことはあるけれど。凄く嘘だと言いにくい雰囲気になってきた。ついでに、助手席の居心地死ぬほど悪くなった。あれから、少し落ち着きを取り戻したのか、運転は先ほどまでの穏やかさに戻ったのがせめてもの幸いだ。



「いや、まぁ……嘘なんだけどね、エイプリルフールだから」
「なんで、そういう嘘を平気で吐くんだ君は。信じちゃったじゃないか」
冷えた車内を暖めるように、片手で設定を弄る照美の手を目で追う。それにしても、彼は滅多に会えないけれど美しさは変わらないのだなと度々思う。
「なんで信じたの?凄い焦っていたけど。照美結婚まだだっけ?」
「いや……中学の時、平良は君に惚れていたからね。嫉妬して酷かったから、ありえなくもないと思ったんだ。僕……か、まあ、考えなくもないけれど。相手がこんな酷い嘘を吐くし、脈がなさそうで困るんだ」



赤信号になった信号を赤い瞳で見つめながらブレーキを踏む。ゆっくりと停車する車、あー、捕まっちゃったかぁ、此処の信号長いんだよなぁ。照美もそれを知っているのか、信号から目を離して私を見つめる。
「……気づかないのかい?」
「何が?」
別の事に意識が行きすぎていて、照美の言葉は半分取り込めていなかったので思わず聞き返してしまった。照美は呆れたような様子で「君が好きだって言っているんだよ、名前」と言った。
「ああ、やり返そうって言うの?」
さっきのたちの悪い、大嘘に対する報復か。だが、私の予想を大きくそれた照美の返事が私の顔に熱を作らせた。
「いいや、僕はあんなたちの悪い冗談を言うほど暇ではないんでね」



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