神童




バレンタインというイベントの日は確かに存在していたが、私は面倒くさがりでどちらかというとずぼらなほうなので、仲のいい友達(茜ちゃんと水鳥ちゃん)に友チョコと称して渡したくらいであって、噂が立つのも面倒なので男友達には一切あげていない。これだけは断言できる。男子には一切あげていない、もしも私が渡しているところを見たという人物がいるとすればそれは人違い、ドッペルゲンガーが居たと言うことになる。ましてや、サッカー部のキャプテンとして名を馳せている神童拓人という男にあげるなんてもってのほかである、恐れ多い。それなのにも関わらず、ホワイトデーと言う割と関係のない行事に神童君に呼び出された。特に気にも留めずに行ってみたのだが、色々誤算だった。
「神童君?」
薄らと上気した顔、ついでに涙目がオプションでついてくる。差し出されたものを受け取れずに、静かに彼の名前を呼んで様子を見る。人気のないひんやりとした音楽室。見ているのはモーツァルトなどの偉い人たちの肖像画の複製のみだ。



「そ、その……普段からお世話になっている、し」
「……あげてもいないのに受け取れないよ、なんか高そうだし」
そもそもホワイトデーとはバレンタインのお返しをする日であるのだが……チロルとかならまだ、受け取っても構わないのだけど、そういうレベルじゃない気がする。外装から判断しているにすぎないが。穏やかな口調で、薄ら笑顔を浮かべて傷つけないように言葉を選別したはずなのにも関わらず彼の双眸からポタリと涙が零れた。彼を泣かせたとなればきっと茜ちゃんや女子(もしかしたら霧野も)が黙っていないだろうし、それにしても渡していない私より渡した女子はいいのだろうか?兎にも角にも、取り敢えず事態を収拾するほうが先だろうと思った。



「神童君をお世話した記憶はないけど、有難う」
「ああ!よかった」
涙の痕が残ったままなのも気にせずに、微笑を浮かべたのをみて女子が騒ぐのもわかる気がした。とはいえ、ただで貰うのは申し訳がない。神童君は何を考えているんだろうか。所詮一人の人間で別々なのだからわかるはずもないのだが。私に渡すことによるメリットが全くない。いや、寧ろデメリットであるとすら感じてしまう。
「あのさ、勘違いされるかもよ?」
自覚有るかもしれないけれど神童君モテるんだし。メンタル強い方じゃないのだから、私との変な噂経ったら泣いてしまうんじゃと、戦々恐々としているのだが。そんな私を露知らずかはにかむ。



「大丈夫だ」
何が大丈夫なのか理解に苦しむ。彼のメンタルは強いのか弱いのかわからない。



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