光良




やっぱりというか、案の定と言うか。沢山のチョコが山積みになっていた夜桜の机を見て、ああーやっぱり、顔面偏差値が高いとこんなに沢山の人から気持ちの籠っているであろうチョコが貰えるのだなー、と少し羨ましく思った。男子から浴びている羨望の眼差しを気にも留めずに夜桜ははしゃいでいる。甘い物やお菓子が大好きな彼には一大イベントと言ったところか。
「名前〜!ほら、お菓子が一杯だよ!あはははははははっ!名前にもあげよーか?」
こんなに食べきれないや、と僅かに表情を曇らせた夜桜。その台詞にヒヤリと背筋に冷たいものを感じ、私の体中の毛穴から汗がドッと吹き出すような感覚に陥った。背後から鋭い殺気のようなものを感じる。これはいかん!命に係わる!



「よ、夜桜?そ、そのチョコたちは夜桜への思いが詰まっているから私はいらないよ……?」
夜桜を傷つけず、尚且つこの殺気をなんとかしようと取り繕った言葉は僅かに震えていたが、とても適切でこの場に相応しいものになった。夜桜はキョトンとしていたがやがて「あはっ!わかったぁ!」と理解した様にブンブンと頷いてくれた。
「名前もあるんだよね?チョコ頂戴、頂戴!」
「あ、あー……あとでね?」
此処であげたら、色々まずい気がする。さっきの鋭く冷たい視線も、気のせいではないと推測しているし。人間の第六感は、馬鹿にはできない。
「や!頂戴!」
視線が益々突き刺さる。悪寒が走る、これは粘っていても引き下がらないだろうと夜桜の反応を見て思った。夜桜は理解してくれる時はちゃんと頷いてくれるがそうでないときは頷いてはくれない。



予め用意していた、箱を机から出して夜桜に渡すと夜桜がラッピングを解きはじめる。箱を開けてチョコを見て目を輝かせた後に、パクパクと摘まんで食べていく。さっきも食べていたのに、よく飽きないものだと感心していたらピタリと食べる手を止めた。チョコに飽きたのかと思ったがそうではないらしく、私の顔を覗き込む。
「……名前、食べさせて!」
残り数粒程度のチョコの箱を私に寄せる。殺気のするこの教室でそんなことしたら確実に寿命が縮まる気がしたのだが夜桜も引いてくれる様子が無かったので「一回だけだよ」と念を押して一粒だけ指でつまむ。



チョコを口元に近づけると、パクリと指ごと食べられそうになった。なんとか食べられずに済んだが、指にはべったり体温で溶けたチョコが付着していた。家に居る時だと少々はしたなく食い意地が張っているように見えるかもしれないが、舐めてしまう。が、此処は学校だ。ティッシュを探そうと夜桜から少し目を離したすきに、夜桜がチョコのついた方の手を掴んで、指を咥えた。
「よざくら?!」
私の制止も聞かずに、付着したチョコを恍惚とした表情で舐め取る。ようやく、離してくれた頃にはチョコは跡形もなく無くなっていて、夜桜の唾液で濡れていた。
「名前ありがと!」
笑顔を浮かべて、何事も無かったかのように残りのチョコを食していく夜桜。寿命は間違いなく縮んだと思われる。



 戻る 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -