篠山




「し、篠山君!こ、これ」
上ずった声で綺麗にラッピングされたチョコと思われるものを差し出されたとき俺は「ああ、光良か毒島……はたまた磯崎にでも渡す奴か」と冷めた目で思った。はっきり言って、俺は光良や毒島たちのお蔭でもてたということがあまりない。残念なことに、バレンタインと言うイベントにもどちらかというと縁がない。自分で言っていて悲しくなるが、現実は直視すべきだ。取り敢えず俺が受け取るのを待っている名前が俺の様子を不安げに見ているので受け取った。こういうこと(つまりは受け渡し)には慣れている。名前も他の女子となんら変わりはなかった。俺は、名前のお願いはなるべくなら聞いてやりたい。そんな気持ちもあった。いい人でもいい。受け取った俺に頬を赤らめた名前が微笑んだ。
「じゃ、じゃあ!返事期待しているから!」



って、誰に渡せばいいのかとか聞かないうちにさっさと自分の教室に戻ろうとするものだから、俺は慌てて名前を呼び止める羽目になった。流石に名前と交流があるからと言って名前の思い人は知らない。(大方、光良か毒島あたりだろうとは思うが)
「ちょ!待ってくれ!これ、誰に渡せばいいんだ?」
名前が振り返る。それから「えっ」と言葉を詰まらせた後に「それ、篠山君にだけど?」と困ったように俺の瞳を見つめた。今度は俺が「えっ」と言う番だった。どういうことだ、と考えを巡らせて辿りついた答えと言えば“義理チョコ”で。ああ、納得と勝手に自分の中で解決した。下手に狼狽えて、恐ろしい勘違いを起こさなくてよかったと心底、ほっとした。



「ああ、有難う」
「……篠山君それ、義理チョコとか思っていない?」
俺の考えを見透かしたように澄んだ瞳を向ける。名前が複雑な、苦い表情を浮かべた。これ以上の回答は俺の中では出てこない。いや、嘘だ。出ている。だけど、それは果てしなく俺に都合のいい物で怖い。自惚れてしまいそうだ。それだけは悟られまいと俯いた。
「篠山君が好きです」
「は?……え?いや、嘘だろ」
今までを思い出してみろ、今まで好きになった子は全員、俺じゃなくて他の奴ら目当てだったじゃないか。
「あの、名前「返事は今度聞くから!じゃ」
怯懦な俺に今まで生きてきた中で巡ってこなかったこと。目の前の椿事は未だに信じられない。返事ってさ、考えなくても決まっているんだよな。



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