西野空 「トリックオアトリィト〜。お菓子くれなきゃ悪戯するよぉ」 宵一が気怠そうな瞳で、私に両手を差し出した。ふっふっふ、甘いぜ……宵一。あんたが私にお菓子をねだることなんて、予想していたわ!と、私はコンビニで買ってきた、宵一が前に好き好んで食べていた、チョコレートを差し出した。宵一がきょとんとした後に「あ〜……なんだぁ、持ってきていたのかぁ」と詰まらなさそうにチョコレートを受け取った。 それから、まじまじとチョコレートを見つめていいこと思いついた!と言わんばかりに顔を明るくさせた。一瞬、背筋に悪寒が走ったが、気のせいだと思いたい。 「僕、これ嫌いなんだよねぇ」 なんて、嘘を言って私にチョコレートを突き返してきた。まさかの、大嘘である。因みに今日はハロウィンであって、嘘を言っていい日ではない。 「嘘だあ!一昨日、食べていたよね?!」 私は知っている。宵一が、このチョコレートを一昨日授業中に食べていたことを!しっかりとこの両の眼で目撃していたのだから、間違いない。因みに先生には頭を叩かれていた。喜多君にもそのあと真面目に授業受けろ!と怒られていた。全然懲りている様子は見受けられなかったが。流石と言うか、鋼の心と言うか……、強靭だよね。本当。 「気のせいでしょ〜?じゃ、悪戯で決定ねぇ〜」 なんか、宵一の思惑通りに事が進んでいる気がしてならない。私は焦りながら、ポケットを弄る。なんでもいい、飴ちゃんでもガムでも……一つでいいから、出てきて!……思いは虚しく、何も入っていない。 チョコ以外に用意していなかった、私の悲しい末路は容易に想像できる。 「酷いよ、宵一……折角、お菓子用意していたのに……」 恨みがましく、宵一を仰ぎ見ると宵一は相変わらず、口元に安っぽい笑みを浮かべていた。 「えー、だってぇ僕、元からお菓子じゃなくて名前のこと食べる気だったからぁ」 不穏な言葉の余韻を残して、宵一が私の唇にキスをした。なんか甘い味がした。私が多分チョコを差し出す前に何か甘いものを食べていたのだろうか。 「……悪戯終わった……?」 「まさかぁ、僕の悪戯は…こんなもんじゃないよぉ」 乾いた愛想笑いを浮かべる。宵一の悪戯のレベルが私は怖い。 前 戻る 次 |