光良




今日は夜桜がいつに増して、楽しそうだった。ケラケラ笑っているのはいつものことなんだけど、今日は何かいいことでもあったのかなぁ〜?と思えるほどに上機嫌だったのだから、気になってしまった。
「夜桜、何かいいことあったの?」
夜桜に尋ねると、夜桜はあはっ!と笑った後に満面の笑みを浮かべていた。おぉぅ…こんなに笑顔の夜桜はいまだかつて、見たことが無いぞ。
「……これからねぇ、いいことが起きるんだよ!あははっ!」
「……うん……?」
思い当たる節が無い私は、ただ首を傾げて夜桜の楽しげな表情を見つめることしかできなかった。まあ、なんにせよ、楽しそうなのはいいことだ。うんうん。



放課後に、終わった教科書なんかをまとめていた時に気が付いた。夜桜が楽しげだった理由。夜桜の机の上に、沢山乗っかっていたお菓子類が多分、夜桜の楽しげだった理由なのだろう。把握した。羨望の眼差しで見ていたら、夜桜が近づいてきて私の口に、小さな小粒のチョコを押し付けた。私は夜桜の行動に驚きながらも、チョコを食べる。
「あま……」
口の中でそれは蕩けていって、チョコ独特の匂いと甘みだけが残る。
「……いいだろ!沢山貰った!皆からカツアゲした!名前にもおすそ分け!あははははっ!」
夜桜は意外と甘いものとか、お菓子とか大好きらしい。その細い体にどうして、これだけの量が収まるというのだろうか。世界は謎に満ちている。



「名前はある?お菓子、持っている?」
物欲しげなまなざしにまだ、貰う気でいるのか。と私は驚いた。机の上に視線をやれば、山積みのお菓子類。もう十分あるじゃないか。こんだけあってもまだ、足りないというのか。
「名前ないの?じゃあ、お菓子の代わりにもっといいもの貰う!名前貰う!あはははっ!」
鈍く光る瞳に私が映って、それが細められた。辺りには誰もいなくざわめく人々の声もない、ただ夜桜の声だけがクリアに聞こえてきた。
「えええ、私は美味しくないよ〜」
「あはっ、俺にとってはどんなお菓子よりも名前がいいんだよ!あはははははは!」



山積みになったお菓子を放って夜桜が私の頬に唇を押し付けた。
「ほら、甘い!」




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