「あーおーいーちゃーん。お菓子頂戴〜」
後ろから抱き着きながら、お菓子を強請る。ついでにくんくんと葵ちゃんの匂いを嗅ぐ。ああ、女の子は癒しだ。なんで皆いい匂いするんだろうなぁ。「何かつけているの?」って聞くと皆、決まって言うんだよね「つけていないよ」って。変態染みた私に葵ちゃんは笑顔で「いいよ」って言って、ポッキーを私の口に入れてくれた。



「持ってきていなかったら悪戯するつもりだったのになぁ〜」
「残念だったね……?」
ふふふ、と緩やかに口元だけで笑う。
「悪戯沢山考えてきたのに、無駄になっちゃった」
勿論、お菓子は好きだ。でも、葵ちゃんに悪戯を仕掛けるほうが何倍も楽しそうだったのだから、残念で仕方がない。葵ちゃんからもらったポッキーを咀嚼しながら、残念だなぁ。と呟くと葵ちゃんが楽しげに口角を持ち上げて、うんうん、と頷きながら考えていた悪戯のお話を聞いていた。本人に聞かせるつもりはなかったのだけど、葵ちゃんはお菓子をくれたから、悪戯をするわけにはいかない。私はその辺わきまえているつもりだ。つもりだけど。



「へぇー。名前ちゃんらしいなぁ〜」
嫌な顔一つせずに、全てを聞き終わると葵ちゃんがもう一本折れていないポッキーを差し出して、私の口に入れてくれた。こうしていると、なんだか、ドキドキしてしまう。
「折角だから、私が名前ちゃんに悪戯……してもいいかな?」
……先ほどまで明るかった顔に影ができた。「え。え?」とあたりを見回して、逃げ場を探す。逃げ場らしい逃げ場なんて存在するはずもなく目の前には葵ちゃんの顔がドアップ。鮮やかで、艶やかな髪の毛だけが脳裏に焼き付く。


私が咥えていたポッキーの端っこを葵ちゃんも咥えていたのだと、理解するのには少々時間を要してしまった。葵ちゃんの瞳とばっちり、交わる。ポシポシ、とポッキーを少しずつ食べていく葵ちゃん、距離は少しずつだけど、確実に縮まる。私はテンパっていてポッキーを噛み切るという手段を忘れていた。もう少しで、唇がくっついてしまいそうだ!というところで私はギュと瞳を瞑る。息がかかるくらいに近い距離、気配は消えない。



だが、予想していたはずのものはいつまでたってもやってこない、恐る恐る瞼をうっすらとあけると、葵ちゃんが微笑んでいた。葵ちゃんを見て、私は悟った、葵ちゃんは直前で折ったのだ、と。
「ふふ、悪戯だよ?」
こつん、とおでこをくっ付けてお詫びに、と箱でポッキーをくれた。ああ、酷い悪戯だ。心臓に悪すぎるよ、葵ちゃん。



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