結局のところ




「はー食べた食べたー」

ボスンとベッドに寝転がった岬は御満悦の表情でそう漏らした。
すかさずその足をバシッと叩いた夜久は、しかめっ面で注意する。

「おい、足立てんな。スカートめくれんぞ」
「はーい」

岬は間延びした返事を返すとそのままごろりとうつ伏せになった。
もっふりと大きな枕に顔を半分埋め、上目遣いにじっと夜久を見る。

「……あのさ」
「ん?何だい、衛輔?」

視線を受けた夜久はその瞳を見返していたが、やがて居心地悪そうに切り出した。
キョトンと丸くなった岬の瞳が電球の光を受けて色みを淡くする。

「…お前さ、男の前でそーゆー体勢やめろって」

続く夜久の言葉に、岬は揺らしていた踵を少し止めた。
それから小首を傾げて問い掛ける。

「…衛輔の前も?」
「当たり前だろ」

夜久の返答に岬はうーんと不満げに唸った。
ごろりとまた仰向けになり、ぼやくようにしてぽつりと漏らす。

「衛輔はゴロゴロ出来んのに不公平だなぁなんか」
「あのな…」

夜久は溜め息を吐くと、ゆっくりと動いた。
膝を乗せたベッドがギシリと軋む。

「…男と女じゃ、どうしたって力の差が出るだろ」
「うぇー?」

岬はあくまで能天気な声だった。
ゆっくりと伸ばされる夜久の手が、やがて岬のそれに触れる。

「…だから。こんな風にされたら、どうする気だよ」

夜久は岬の手首を掴むとそのままベッドに押さえ付けた。
足の間に膝を入れ、完全に上に被さる。
見下ろす岬はちょっと驚いたように目を見開いていて、夜久はじっとその瞳を見つめる。

しかし、それも束の間だった。
ふっと岬の唇が弧を描いた、かと思った次の瞬間、夜久の腕は到底抵抗できない方向に力をいなされた。
視界の隅、素早く身を翻した岬はあっと言う間に位置を入れ替えさせた夜久に馬乗りになる。

岬はするりとベストを脱ぎ落とすと夜久の顔の横に片腕をつき、空いたもう片方で自分の襟元を緩め始めた。
夜久を見下ろす瞳に、加虐的な光が灯る。

「…寝技に持ち込んで、衛輔が私に勝てるわけないだろ?」
「ベスト脱ぐなネクタイほどくな迫りくんなーー!!」

夜久は生き生きと瞳を輝かせる幼馴染みを一喝して退かせるとドキドキ言う心臓に深呼吸した。
一方の岬は自分に背を向ける夜久にも気を悪くした様子もなく、けらけらと笑う。

「まぁそれは冗談だけど」
「(なんてタチの悪い…)」

夜久は早鐘を打つ心臓を押さえながら内心ひっそりと毒づいた。
なんで自分はコレに、と今一度顧みていると不意にトンと背中に温もりが触れる。

温もりはそのまま細い腕を伸ばして夜久の腹の前で交差した。
首を捩らせ背後に目線をやれば、不思議そうな顔をした岬と視線がかち合う。

「ん?」
「いや、ん?って……何やってんの」
「衛輔堪能してますが?」

岬は何でもないことのように言うと夜久の肩に顎を乗せた。
耳元にかかる吐息に自然頬を熱くさせながらも夜久はぼそりと口を開く。

「……後ろからだけでいーの」

夜久の言葉に岬はしばらく無言で止まっていた。
そしてやおら離れたかと思えば、芝居がかった仕草で再度身を乗り出す。

「それはもしかして押し倒す許可…グフッ!!」
「お前の頭はそればっかか!!」

そしてそれを夜久のアッパーカットが迎え撃った。
勢い余ってベッドから転げ落ちた岬は床でひっくり返ったまま相も変わらず笑っている。

「あっはっは、照れ屋さんめ!」
「やかましいっ!」

夜久は吼えながらもやがてふっと口元を緩めた。
何だかんだ、今の関係に満足してしまっているのは岬だけではなかった。



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