Vol.8/真実





「まぁ単刀直入に言えばオレたちはマフィアだ」

あっさり言い放たれたそれはさすがにこの時代ではわかるものではなく、かごめ以外の面々は戸惑いの表情を見せた。

が、当のかごめははっと息を呑み顔を青ざめさせる。

「おい、まふぃあってのは何なんでぃ」

それに目敏く気付いた犬夜叉は腰の刀に手をかけて低く唸るように言った。

リボーンはそれだけで犬夜叉とかごめの間にあるものをある程度はかったのか、フッと鼻で笑って口許を歪ませる。

「日本語に直すだけならヤクザだな。もっとも、うちは自警団上がりなんだが」

「…あの、でも…。あたしのイメージだとマフィアって悪いっていうか…その」

「犯罪組織。そんなところか?」

おずおずと口を開いたかごめにリボーンはザクッと切り込んだ。

眼に警戒の色を浮かべた珊瑚と弥勒をよそに、申し訳なさそうに頷いた少女に赤ん坊は(無駄に)つぶらな瞳を緩く細め、側まで歩いて安心させるようにその膝を叩く。

「確かに何も悪いことをしていない組織ではねぇ。だが」

リボーンは言葉を切って奏多を見た。

誇らしげに笑んだ奏多にまたニヤリと口角を上げて、空を仰ぐ。

「今のボス…頭領はなかなかにあまっちょろい奴だからな。その手の汚ぇことをやらざるを得ないなんて考え持ち合わせちゃいねーんだ」

「それって…」

珊瑚が身を乗り出した。

弥勒も真面目な顔で聞き入っている。

「なかなかどうして綺麗事ばかりだが、最悪の状況でもそれを捨てねぇバカが頭をやっているうちは、少なくとも誰にでも胸を張れる組織だろうな」

「マフィアも映画の中みたいのばかりじゃないのね」

かごめが微笑んで言った。

リボーンはボルサリーノのふちをちょっとつまんで瞳を隠す。

「…ま、そんなとこだ」

帽子の影から覗く口元はにっと笑っていてかごめは良かったと手を打って喜んだ。

「ごめんなさい、正直ちょっと怖いと思っちゃったの。でも、もう安心だわ」

「あたしも。奏多にりぼーん、だっけ?よろしくね」

「奏多どのが居れば心強い。よろしく頼みます」

犬夜叉以外の面々は顔を綻ばせて歓迎を示した。

リボーンは中でも珊瑚とかごめの間で愛想を振り撒き、持て囃されている。

それを横目にイライラと眉根を寄せる犬夜叉に奏多が唇をほとんど動かさずに言った。

「その首領に気付かれないように汚い仕事を片付けるのが私たちなんだけどね」

犬夜叉はばっと奏多を見た。

途端に弁慶の泣き所を蹴飛ばされ、悶絶する。

「てめぇ、」

「うるさい。いちいち大袈裟」

犬夜叉はピシャリと言われて押し黙った


確かに弥勒なら上手く動揺を隠すだろうし、珊瑚も弥勒さえ関わっていなければそれなりだろう。

かごめも機転が利くから、自分ほど感情に直結した行動はとるまい。

奏多は腕組みしてリボーンたちの方を眺める姿勢を取りながらゴーグル越しにちらと犬夜叉を見やった。

そこに親愛の色はなく、義務的な光だけがうかがえる。

「…つまりはそれなりに汚ぇことは隠してやってるっつーことか」

「先代自体はともかく、それまでの歴代首領が色々仕出かしてきてくれてるからね。敵によっちゃあとても現首領に気付かせたくないえげつないのもいるんだよ」

「けっ。ガキかよ。綺麗事ばっか言って」

「…そりゃ、綺麗事を掲げ続けて貰わないといけませんから。誰が好き好んでドロドロした未来像ばっか口にする奴についていこうと思うのさ」

「…そんなやつなら、お前がやってること知ったら…」

「怒るだろうね」

奏多は態度には一切出さず、ただちょっと困ったような声音で言った。

犬夜叉がそっと視線をやれば、ゴーグルの奥に見える瞳が気まずげに細まっている。

「だけど、ツナには汚いことでは悩んでほしくないんだよ。難しい話だけで十分」

「…とんだあまちゃんだな、おめーもよ」

「あまちゃんで結構。私はツナが気付かないよう、細心の注意を払って生きていく」

「…窮屈な生き方だな」

犬夜叉のコメントに奏多はフッと笑った。

そして空を仰ぎ、ゴーグルに空を映す。

「私のために命をかけてくれたツナたちのためなら、人生くらいかけれるってもんだよ」

犬夜叉はそれがどういうことなのか聞こうとした。

けれどその前にかごめの声がして己の声が封じられる。

「犬夜叉ー、奏多さーん。こっちで話ましょうよー」

「…はいはーい」

犬夜叉はすいと動いてかごめたちの方へ向かった奏多の背を見送った。

そしてその先にいた、リボーンと視線がかち合う。

リボーンはニヤリと笑った。

それはまるで今まで自分と奏多が話していたことが全て把握出来ている、とでも言うかのようで。

「…っ」

犬夜叉はぶるっと身震いしながらもそれを押し隠して輪の中に入った。

未だ犬夜叉をひたと見つめ続ける黒は、何を考えているやら察することが出来なかった。







prev|next

 BookMark

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -