Vol.9/裸の付き合い
かごめたちともっぱら話すのはリボーンだった。
そのリボーンに付き従うようにばかり動く奏多は正直な話やりづらく、犬夜叉が爆発したのは同行してわずか一日のことだった。
「やい、てめぇ奏多。ちったぁ自分の意思で話すくらいしやがれ」
「ちょっと犬夜叉…」
イライラと突っ掛かる犬夜叉、宥めるかごめ。
その視線の先で奏多は白けた面持ちをしている。
「……リボーンどの。奏多どのはもしや、何か複雑な事情でもおありか?」
見かねた弥勒は先程まで乗っかっていた奏多の肩を離れ、手近な岩で空を見上げるリボーンに尋ねた。
つぶらな瞳は弥勒を映し、そしてその口元がニヤリと歪む。
「んなこたねーぞ。距離をはかりかねてるだけだろ」
「距離…?」
弥勒は戸惑いの眼差しを向けた。
しかしリボーンのニヤリ笑いはそのままだ。
「奏多は両極端だからな。敵か味方かわかんねぇうちは、あんなもんだ」
「…はぁ」
弥勒は結局そこから話を展開させられずに終わった。
その傍らで、珊瑚が思案顔で宙を見つめる。
奏多に突っ掛かる犬夜叉と奏多本人、そしてかごめの3人の方は変わらず平行線を辿っていた。
†††
「良かったー、野宿じゃなくて」
例によって、弥勒の舌先三寸で得ることに成功した宿にて、かごめがにこにこしながら言った。
一行の前に据え置かれた膳はすでに空で、言わずもがなリボーンも行儀よくすべてを食べ終えている。
肥えた舌には少々物足りなかったようだが、そこは食後のエスプレッソでカバーだ。
「ね、すぐ近くに露天風呂があるんですって。行ってみない?」
奏多がリボーンのそばでティータイムが終わるのを待機しているのを見てかごめはそう誘った。
ゴーグルの奥の黒がうかがうようにリボーンを見、赤ん坊はニッと笑って頷いて見せる。
「行ってこい」
「…じゃあ、行くよ」
奏多は淡々と言うと折っていた膝を伸ばし立ち上がった。
断られなかったことにかごめはほっとしたものの、緊張感が生まれたこともまた確かで内心ドギマギしていた。
「はー、いいお湯〜」
が、それも湯に浸かってしまえば吹っ飛んだ。
かごめは現代ではなかなか体験できない自然の風呂に相好を崩していた。
傍らの珊瑚も気持ち良さそうに湯を肌に伸ばす。
それを横目に、奏多はようやくブーツやリストアーマーを外し終えたところだった。
ゴーグルを外し、ヘアピンも外したところで少女はふぅと息をつく。
そして奏多は肩からパーカーを滑り落とした。
途端、響くゴトンと重い音。
かごめと珊瑚は振り向き、そしてぎょっとして固まった。
それもそのはず、ある程度は予想していたものの奏多の背にはガッシリした銃が二丁しっかりと装備されていた。
ちらりと見える限りでは両脇、腰の両側にも小型のそれがあり、左の腿にもらしきものが見えている。
さらに言うならパーカーの裏側にはびっしりと暗器が張り付いていた。
珊瑚の隠し武器にも通ずるようなものもあれば、忍者かと言いたくなるもの、更にはなかなか見たことのない恐らく西洋のものであろう小型の武器もあり、二人はついついそれに見入る。
「…脱ぎにくいんだけど」
奏多は困ったように言うとカチャリと腰のベルトのようなものを外し、チェーンを外した。
そこにぶらさがった立方体は主にグリーンとブルーで、その匣からあらゆるものが飛び出していたことを思い出したかごめはおずおずと尋ねる。
「あの〜、それって」
「?…あぁ、匣兵器」
「ボックス兵器?」
奏多は聞き返したかごめにひとつ頷くとするりとショートパンツを脱いだ。
次いで他の武器類を外し、衣類も脱ぎ去るとようやく湯に浸かる。
「普通に武器もあるけど…生体兵器とでも言うのかな。まぁ、普通武器っつーか相棒として見るもんだけどね」
奏多は引き寄せた服からいくつかの指輪を取り出すと軽く月明かりに翳した。
いささかごつい印象を与えるそれだが、作りは非常に精密で美しい。
「綺麗ね」
「うん。それに、装飾がすごく細やかだ」
「………」
かごめと珊瑚の称賛に奏多は気をよくした様だった。
どこかそわついた様子で指輪をひとつ指に嵌め、雷を灯す。
そして奏多は匣をひとつ開いた。
飛び出した白の狼、ビークは優雅に弧を描いて着地すると、音もなく走り出す。
「何をしたの?」
「見張り。まぁ、何も起こらないだろうけど…あの子の散歩にもなるし」
「綺麗な狼だ。名前は?」
「ビーク」
ビークをネタに、女3人の話は盛り上がるかと思われた。
次の瞬間、すぐそばに凄まじい雷撃が迸る。
「な、何!?」
「ビーク、戻れ!」
奏多の声にビークは茂みをガサガサ言わせて戻ってきた。
その口には何かを引きずっている。
「み、弥勒様!?」
その何かとは弥勒だった。
黒衣はところどころ焦げ、頬や手足に擦り傷が出来ている。
「やぁ皆様、素晴らしい眺めで…」
弥勒はあくまで柔和な笑みを浮かべて言った。
その言葉に今の自分達の姿を思い出したかごめと奏多はすかさず湯に戻る。
しかしその中で、胸を腕で隠した珊瑚はもう片方の手で自分の得物を握っていた。
ざばりと湯が波打ったかと思うや否や、振りかぶった彼女はそれを投げ放つ。
「このドスケベ法師!!」
飛来骨は飛んだ。
弥勒の顎を強打し、そしてそのまま天高く。
この後ビークは気絶した弥勒の運搬と飛来骨の回収に駆り出された。
奏多は少し、かごめや珊瑚と打ち解けた。
リボーンはただ、ニンマリと笑みを浮かべて奏多を見つめていた。
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