Vol.7/隠すもの




「…時に奏多どのだったか。何か顔を隠す理由がおありで?」

それから少し歩き、本日は野宿にするかと夕飯後のひとときを過ごしていた時だった。

そう尋ねた弥勒に、かごめも賛同して質問を重ねてくる。

「そういえばそうね。…ゴーグル外さないの?」

「………隠してる訳じゃないけど」

奏多は言ってフードを剥ぐとゴーグルも下ろした。

まず左サイドに軽く流した髪をクロスさせたヘアピン2セットでとめつけているのが露になる。

ついでさらされたやや彫りの深い顔は、いわゆる美人と呼ばれる部類に入るだろう造りだった。

弥勒の瞳がキラリと光る。

「なんと、奏多どのがこのような美貌をその面の下に隠しておられたとは」

「は?」

弥勒は奏多の手を取るとぺらぺらと捲し立てた。

傍らで珊瑚の眉がきつくつり上がり、残る3人の顔が呆れの色を浮かべる。

そうしているうちに弥勒はお約束の一言を吐いた。

「奏多どの。私の子を産んでは下さらんか」

「口説き文句が重い。」

しかし奏多は冷静に切り返すと腕を振り払った。

ゴーグルだけつけ直し、リボーンを見る。

「まだまだ甘ぇな」

リボーンはにやっとして言った。

一行は怪訝な顔になるが、奏多が足を組むのに地面を蹴った音でそれは一旦流される。

「奏多さん、やっぱりゴーグル付けるの?」

「奏多はあんま視力が良くねぇんだ。ゴーグルはその補強してんだ」

かごめの質問にリボーンが答えた。

奏多は腕組みして沈黙を貫いている。

「…あのさ、あんたいくつなの?親兄弟は?」

今度は珊瑚が尋ねた。

奏多はちょっと黙っていたがやがて静かに答える。

「いるよ。疎遠だけど。父母に兄と姉が一人ずつ」

「なんで疎遠なんじゃ?」

その答えに七宝が尋ねた。

奏多はさして気にした風もなく淡々とまた答えを紡ぐ。

「…小さい頃に今の組織にスカウト…あー、うちの組織に是非入ってくれって誘いが来たんだよ」

「組織?」

今度は犬夜叉だ。

ただしその表情は疑いの色がありありと浮かんでいる。

「……あー」

奏多は失言だという顔でリボーンを見た。

次の瞬間、どこから取り出したやら巨大なハンマーがその顔を直撃する。

「ゴフッ」

「大馬鹿め。誤魔化すつもりならもっとうまくやれ」

リボーンは言うと「まぁオレは隠すつもりなかったけどな」と付け加えた。

痛そうに鼻をさする奏多は「そっすか…」とただ遠い目をしている。

そこに犬夜叉が噛みついていく。

「やい、組織ってなんのことでぃ。何企んでやがる」

「これから話してやる。少し待て」

しかしやはりリボーンは冷静だった。

幼子でもあしらうように軽くいなす。

「…下手に隠しだてしやがったら…」

「どーするってんだ?」

刀に手をかけた犬夜叉の言葉に被せるように言って、リボーンはニヤリと笑んだ。

一瞬でその場を満たした殺気に全員の肌が粟立つ。

「…リボーン」

その中で唯一若干なれども耐性のある奏多が小さく呼び掛けた。

それで殺気はふっと緩む。

警戒丸出しの犬夜叉を除き、一行はどんな話やらとただそれを待った。





そこから数分。

奏多はカチャカチャやっていたが芳ばしい香りと共にリボーンにカップを差し出した。

当然のように受け取ったリボーンは優雅に香りを嗅ぎ、一口すすってコメントする。

「他のことはまだまだだが、技術開発の才能とエスプレッソを淹れる腕だけは確かだな」

「そりゃどうも」

奏多はちょっと口角を上げると、かごめたちにもカップを差し出した。

戸惑いながらもかごめたちはそれを受け取り、おそるおそるといった体でカップに口をつける。

「…ちょっと苦いけど…すごく美味しい」

「私はこのくらいがいいですな。香りも素晴らしい」

「あたしはちょっと苦いかな。でも、ほんとに匂いはいいね」

口をつけなかった犬夜叉以外はめいめい感想を漏らした。

はじめからぬるめ甘めを渡されていた七宝は夢中で飲んでは傍らの雲母に時折舐めさせてやっている。

「砂糖とミルク、お好みでどうぞ。で、リボーンは話どうぞ」

「ああ」

奏多は珊瑚とかごめに砂糖とミルクの瓶を寄越してやるとリボーンを促した。

またカップを傾けたリボーンは短く答えてからすっと一行を見据える。

「さて、何から話すかな」

カップから立ち上る湯気が、螺旋を描いて揺れていた。






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