Vol.5/交流と合流
「オレ達の頼みを聞いちゃくれねーか?」
そう言ってニヤリと笑った赤ん坊に、かごめはどうすべきかと腕の中の七宝を抱き締めた。
先程自分達を襲撃してきた人影は、ただ黙ってその傍らに立ちつくしている。
「…話の前に」
かごめはごくりと唾を飲み込みながらもその瞳を見つめて言った。
「仲間を介抱させてくれない?」
赤ん坊は一瞬拍子抜けしたようだったがやがて帽子のつばをきゅっと持ち上げ、口角を改めて吊り上げた。
「構わねーぞ。なんならコイツも使え。手当ても慣れてるんでな」
赤ん坊に指し示された影は、かごめの視線を受けて肩を竦め、緩やかな動きで弥勒の方へと歩いていった。
かごめよりは背はあるようだが、さして体格差の無い彼女が弥勒と珊瑚をあっさり担ぎ上げたのはなかなかに度肝を抜かれるものがあった。
一行は少し開けた場所で体を休めることと相成った。
†††
幸いか、それとも端から気絶だけを狙っての攻撃だったのか弥勒と珊瑚はすぐに気付いた。
犬夜叉もさして間を置くこともなく目を覚まし、かごめはほっと息をつく。
「えっと、名前を聞いてもいい?」
かごめはとりあえずといった体でそう尋ねた。
赤ん坊は頷き、流暢に話し出す。
「オレの名はリボーンだ。こっちは、」
次いで小さな指で隣の影…少女を指し示す。
「奏多だ。そっちの名前も聞かせろ」
かごめは少女が軽く頭を下げるように体を傾けたのを視認するとリボーンに向き直った。
小さく息を吸い込み、口を開く。
「あ…あたしはかごめ。こっちは犬夜叉」
「けっ」
「ちょっと犬夜叉、」
かごめが犬夜叉をいさめるのを横目にリボーンの視線が弥勒と珊瑚に移った。
口調に迷ったものの、各々慎重さの残った声音で名を口にする。
「…弥勒と申します」
「…珊瑚。この子は雲母」
「おら七宝じゃ」
最後に七宝が飛び出たが、それは冷たく一瞥しただけでリボーンはまたかごめを見た。
「…あの、それで頼みって?」
そのことにかごめが気付き、話題を掘り返す。
その反応の良さに気をよくしたのかリボーンはまたニヤリと笑い、口を開いた。
「俺達はガキの遊びに付き合ってられるほど暇じゃねーんだ。とっとと家帰んな」
しかし犬夜叉がそれを遮るように吐き捨てた。
リボーンの顔から笑みが消え、つぶらな眼がじっとその顔を映し出す。
「うるせーぞ、黙ってろ」
赤子は全身の毛が逆立つような、異様に静かな声で言った。
犬夜叉はギクリと身を引き、代わりに七宝がひょこひょこと進み出る。
「こりゃっ!犬夜叉は性格がコドモなんじゃ、そんな口きくと…」
「うるせぇ七宝!」
「わーん!」
ガツンと音がして七宝の脳天には立派なたんこぶが膨れ上がった。
それに続けて犬夜叉はリボーンの頭にも拳を降り下ろす。
「−…邪魔すんじゃねぇ」
しかし次の瞬間、ばきょっと骨の外れるような音と共にふっ飛ばされていたのは犬夜叉の方だった。
赤と銀が勢いよく地面を転がり、少し先の木にぶつかってピクリとも動かなくなる。
「い、犬夜叉!」
かごめが慌て、七宝は怯えて珊瑚の後ろに隠れるが蹴飛ばした張本人は涼しい顔だ。
「…あーあ。言わんこっちゃない」
少女は呟いたが赤ん坊が銃を構える音でさっと顔をそらした。
銃はすぐに仕舞われたが、その場には緊張に満ちた沈黙が流れる。
その後、なかなか言葉を発せるものはおらず、一行はただじっと静けさに身を任せていた。
▼ BookMark