Vol.3/お手並み拝見
「妙な妖怪だぁ?」
赤い着物に銀色の髪、そして髪の間からちょこんと生えた獣耳の少年こと犬夜叉は怪訝な面持ちで村人に聞き返した。
「へぇ。ほんの数刻前ですかねぇ、悲鳴が聞こえまして。そいつァすぐさま聞こえねえようになったんだが…」
「村の外れにやたらでかい獣の足跡と、よくわかんねぇが大きさからして多分人間くれぇの妙な足跡がこう、ずーっと」
それに対し不安そうに答える村人達。
犬夜叉の傍らでは法師こと弥勒と、出で立ちこそ村娘だが背中に大きな得物を担いだ少女─珊瑚が口を開く。
「あいわかりもうした。退治なり調べるなりは、我々が請け負いましょう」
「そうだね。妖気はないようだけど、ひょっとしたらってこともあるし」
二人の返答に犬夜叉は不満の声を上げかけたが緑と白の奇妙な出で立ち…まぁセーラー服だが…の少女、かごめに睨まれぶすくれながらも黙り込む。
かくして、本日の宿と引き換えに彼らに仕事が振ってわいた。
尤も、この時すでに歯車が回り始めていることなど誰一人として知る由はなかった。
* * *
一晩明けて、一行…犬夜叉、かごめ、弥勒に珊瑚と小狐妖怪の七宝、珊瑚の相棒である猫又の雲母は足跡があるという村外れへ急いだ。
見れば成る程言っていた通りの奇妙な足跡二つが一直線に伸びている。
「…んだ、こりゃ」
「獣は獣みたいだけど…妖気もないのにこんなでかいの見たことないな」
昨日の雨で少々ぬかるんだ地面にくっきりとついたそれらに眉をしかめながら、一行は足跡の進行方向を見据える。
「かごめ、四魂の欠片の気配は」
「無いわ」
やがて口を開いた犬夜叉の問いにかごめが答えると、少年は憮然とした面持ちで言った。
「じゃあもう妖怪はいなくなったってことでいいじゃねーか」
「それは嘘になるじゃない。泊めてもらったんだしもう少し調べるくらい…」
言いつのるかごめ、しかしその肩に七宝が飛び乗って囁く。
「かごめ、雨のせいで臭いが流れて鼻が利かんのじゃ。これ以上はおそらく思うように情報は集まらんぞ」
幼子の口から飛び出た正論に、人間3人は溜め息を吐いた。
それはそうだ。
そして、おそらく情報はもう出てこない。
「…ずらかりますか」
「…それしかないわね」
「…まぁ、妖怪ではないみたいだし、ね…」
痛む良心をどうにか無視して、ほれ見ろとでも言いたげな犬夜叉に急かされようやく一行は村を後にしたのだった。
一行が去って数分。
近くの木の枝が大きく傾いでそこから大きな鷲が飛び立った。
羽は青い炎を帯びており、妖気こそないものの「普通」でないことは明らかだ。
そしてその鷲の足には奇妙なものが嵌められていた。
黒く無機質に光を反射させるそれは、この時代にあるはずのない小型カメラだった。
* * *
犬夜叉一行はがさがさと山道を進む。
それを、遥か上空の枝からじっと見下ろす影二つ。
「…リボーン、マジでやんの?」
「あぁ。まぁ、見たとこなかなか出来そうだが念のためテストだ」
「…その心は?」
「ただの興味本意だぞ★」
「そりゃないぜ旦那」
影はしばらく無駄口を叩き合っていたが、やがて二つの影のうち大きい方が立ち上がった。
「さて…じゃあそろそろ行ってくるよ」
「しっかりな」
影はニヒルな笑みを浮かべたもう片方にひらっと手を振り、枝を蹴ってやがて見えなくなった。
「…さて。お手並み拝見だぞ」
残った小さな影はそう呟き、どこからともなく現れたパラグライダーで空へと飛び立った。
「…ん?」
それ、に真っ先に気付いたのは犬夜叉だった。
腰の刀に手をかけ、かごめを庇うようにして低く身構える。
「犬夜叉、一体何が…」
その行動に眉をひそめた珊瑚が声をかけかけて、ハッと身をすくませた。
刺すような鋭い殺気が一瞬で辺りに走る。
しかし、全員が戦闘体制に入る前に「それ」は既に襲い掛かってきていた。
音も気配も無く現れた影はしなやかな鞭のように足を大きく凪いだ。
完全に意表をついた攻撃は犬夜叉を正確に捉え、いくらも先の大樹まで吹っ飛ばした。
軽やかにその場に着地した影は、にやりと口を歪めて笑った。
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