Vol.13/戦い
沢田綱吉、という人物に初めて出会ったのは奏多が中学3年になってすぐのことだった。
六道骸を倒し、XANXASを倒し、白欄を倒し、シモンファミリーと和解し、そしてアルコバレーノの長きに渡る呪いを解除に至らしめたその存在というのは並中に在籍するいちマフィアとして知っていた。
むしろ、リボーンとは幼少から知り合いで、度々銃の稽古(超スパルタ)を受けるなどそれなりの繋がりもあったのだ。
なのに、正式に綱吉の代のボンゴレに入ることとなったのは一連の出来事がすべて終わったあとだったというのは奇妙と言えば奇妙な話だった。
そしてそう、出会ったときのことは、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
「ツナ、紹介してやる。こいつは秋城奏多ってんだ」
そんなざっくりした説明に、綱吉は一瞬キョトンとした後ハッとして頭を抱えた。
そして裏返る一歩手前のような声で叫ぶ。
「まさかこの人もマフィアー!?」
「察しがいいな。その通りだぞ」
「んなー!!」
第一印象は「変なやつ」。
何をやってもダメだのなんだのという校内での評判も知っていたから、「あの」リボーンにそんな砕けた態度を取れているのが意外だと思った。
「…初めまして、ボンゴレ十代目。…あ、ネオ・ボンゴレプリーモのがいいのかな?」
奏多は畏まった態度を取るべきかはたまた同級生に対しての態度を取るべきかはかりかねながら口を開いた。
が、他人行儀なその台詞に綱吉はといえばぎょっと目を剥いていて、焦ったように首を振る。
「い、いやいや!!普通に呼んでよ!」
「え…と。じゃあ、沢田?」
「あ、うん別にそれでもいいけど…」
「ツナって呼んでもらえばいいだろ。気取ってんじゃねーぞ」
「気取ってないから!!」
リボーンに容赦なく(もちろん言葉でだけだが)突っ込める人材。
それだけで奏多はほぅと思った。
リボーンの弟子、綱吉の兄弟子に当たるディーノも顔馴染みだが、あれがここまで砕けたツッコミを出来るかというと微妙なところだ。
奏多の中の綱吉株がぐんと上がる。
「おいてめぇ、十代目に妙なマネしやがったらただじゃおかねぇからな!」
「まーまー落ち着けって獄寺。えーと秋城だっけ?オレ、山本な」
そして横から声をかけてくる、後の友人二人。
この時の彼らの印象は、「独り善がり」「能天気」。
もちろん、多少その気はあっても全てでないことはすぐに判明するのだが。
「……奏多でいいよ。ファミリーネームあんま馴染み無いんだ」
「ん?そーなのか?じゃあ奏多って呼ぶわ」
「……」
奏多は正直、生温いものだと思った。
もちろん自分自身、日本の学生という平和ボケにボケを重ねた生き物とマフィアという対極の責を負っているのだから他人のことは言えないのだが、それでも思わずにはいられなかった。
けれどそれは、とある事件を境に変わる。
「奏多は大事な友達なんだから」
綱吉は命をかけるとかそんな大袈裟なことは言えないけど、と前置きした後でそう言った。
その時の彼の体はボロボロで、もちろん過去綱吉が乗り越えてきたそれらを思えばまだマシだったのだろうけれど命の危険は確実にあって。
「……ツナ、」
「奏多が無事で、本当に良かったよ」
なのに綱吉はそう言って笑った。
事件のあらましははぶくけれど、これが彼女が心身ともに正式に綱吉のファミリーに所属した時のことだった。
†††
ヒュン、と刃が風を斬った。
まとう雷はその硬度を強化し、切れ味を鋭くする。
さらにそのまわり、淡く帯びた青の炎が煙を少しずつ浄化する。
「(おのれ小娘…ちょろちょろと小賢しい…!)」
妖怪は苛立った声を上げていた。
自分の攻撃が効かないこともあるが、何よりじわじわと確実に少女の攻撃が自身に影響していることに気付いてだ。
妖怪は何度目かの、心を探ることを実行する。
しかしそのうち、ポツリポツリと雨が降りだした。
そしてそれは、決定的に妖怪の動きを鈍くする。
「(小娘貴様…!)」
上空を青の炎をまとった鷲が旋回していた。
ハッとして下を見れば、大業な作りの指輪に同じ色の炎を灯した奏多がにやりと笑う。
「…そこか」
「(しまった…!)」
屋根の上、一行の部屋の真上に位置するそこ、蜘蛛のように貼り付いていたその妖怪はざわざわと蠢いた。
しかし鈍った動きでは逃げることはおろか向きを変えることも叶わず、妖怪はただ己に向けられる冷たい銃口を見つめる。
「Arrivederci.(さようなら)」
乾いた発砲音が耳を打ち、直後その場にぱっと血飛沫が舞った。
妖怪の目からは急速に光が消え、そして重々しい音を立てて地に落ちる。
雨の止んだそこでは、銃口から登る細い煙が揺れていた。
黒光りする銃身が雲の間から陽射しに鈍く輝いていた。
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