Vol.14/まさかの事態
「っでりゃぁぁぁああ!」
雄叫びと共に、鉄砕牙が振り下ろされる。
着地した奏多は至極冷静に背中から拳銃を引き抜くとそれをうまく受け流す。
「ちっ!」
そしてすかさず逆の手に持った銃が発砲される。
弾は正確に犬夜叉の腹にインクをぶちまけ、それに気をとられた隙に、大きく凪いだ脚が顎を強打する。
ゴロゴロと転がった犬夜叉は悪態づきながら立ち上がり、また刀を構えた、のだが。
「勝負あったな。奏多の勝ちだぞ」
淡々とした声が戦闘を止めた。
それを合図に奏多はさっと武器を下ろすも、犬夜叉は声の主に噛み付く。
「なっ。まだ俺は戦える!」
「敗けは敗けだ。潔く認めろ」
「負けてねぇっ!」
「………」
ふとリボーンが黙った。
しかしそれは他よりもリボーンをよく知る奏多からすれば、よくない前兆に他ならない。
「口答えすんな」
「ギャンッ!!」
案の定、軽やかに跳び上がったリボーンはそれはそれは痛そうな一撃を犬夜叉の顔面に見舞った。
犬夜叉はあまりの衝撃と痛みで地面に倒れ、声もなく悶え狂う。
それをしらっと見やり、リボーンは静かに言う。
「お前の戦い方の問題点はそんなネバーギブアップ根性の話じゃねーんだ」
「ねば…?」
「諦めない云々でどうにかなるってことじゃないってこった」
犬夜叉はよくわからないような顔をしていた、がリボーンはそれ以上言うつもりはないようでそのつぶらな瞳をすっと別へ向ける。
「で、奏多だが」
視線を向けられた奏多が身を固くした。
リボーンは御名答、とでも言いたげにニンマリすると至極楽しそうに評価を告げる。
「おめーは武器に頼りすぎだ、今からは体術オンリーねっちょり鍛えてやるからな」
「ねっちょり嫌ァァア!!」
奏多は悲鳴を上げた。
リボーンが楽しそうであればあるほど修行は厳しくなる、というか意味もなくスパルタ度が上がる、といった方程式は昔からで、そんな現実を嘆く奏多にリボーンの笑みはますます意味深なものになる。
「今のとこ、一番優秀なのは珊瑚だな。流石だぞ」
「ありがとう」
リボーンは珊瑚に向き直ると、今度は比較的穏やかな笑みをニッと向けた。
珊瑚の方も退治屋業で培ってきた実力を認められて嬉しいのか、やや弾んだ声を返す。
「弥勒はもっと普段から体術使うべきだな。悪くねーんだ、このままいくと鈍るぞ」
「…やはりそうですか…」
弥勒も苦笑いしてはいるが真摯にアドバイスには聞き入っていて、なんとなく面白くない犬夜叉はフーッと膨れる。
「犬夜叉、おめーは動きがいちいち大振りなんだ。小回りの効く攻撃に致命的な一撃が含まれてりゃ、それで御陀仏だぞ」
「けっ、うるせぇ」
それを見もせず、リボーンは淡々と犬夜叉に告げた。
つーんと顔を背けた犬夜叉に、かごめがいさめるように声をかける。
「犬夜叉、うるせぇじゃないでしょー。せっかくアドバイスくれてるのに」
「あど…?」
かごめの恒例、うっかり使ってしまう横文字単語に犬夜叉が怪訝そうに首を傾げたその時、金属の擦れる甲高い音と共に犬夜叉の耳を何かがかすった。
ボルサリーノで目元に影が落ち、表情の読めない赤ん坊は細く煙を上げる拳銃を掲げたまま低く言う。
「…返事は「はい」だろ?」
「………………ちっ」
恐怖に顔を青ざめさせながらも、強がりで舌打ちを返す犬夜叉。
しかし実際のところ、かごめを盾にしての抵抗なあたりなんとも絵面は情けない。
「…素直に聞き入れてりゃいーのに」
「まぁ、そういった助言を受けずに生きてきたわけですからな。慣れないのもあるんでしょう」
珊瑚と弥勒はそれを眺めながら冷静に呟いた。
奏多は拳銃をクルクルと回転させながら待ち受けるねっちょりに気を重くする。
と、その時だった。
何もなかった空間で突然爆発が起きた。
一行はすぐさま臨戦態勢を取るが、奏多はその爆発でたちこめた煙にふと眉根を寄せる。
「っ、イテテ…」
その中から聞こえてくる、聞き覚えのある声。
「…ん?ここ、どこだ?」
やがて煙が晴れてその姿がハッキリする。
やや能天気とも言えるその声の持ち主は、きょとんとして周囲を見渡していたがやがて奏多を見付けるとぱっと顔を輝かせた。
「おっ、奏多じゃねーか!なぁ、ここどこだ?」
「……イヤイヤイヤ」
フレンドリーに近付いてきたその少年に奏多は盛大に顔をひきつらせた。
流石のリボーンも目をぱちくりさせている。
「なんでいんのかな山本…!」
「?」
煙の中から現れたのは、ボンゴレファミリー『雨』の守護者・山本武その人だった。
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