君と雪





「千葉はクリスマス、予定ある?」

菅原は徐に隣を歩く遥に問い掛けた。
ふわりと毛先を揺らして首を傾げた遥はいつもと同じのんびりした口調で答える。

「……一応1日は家で過ごすけど…それだけ…」
「三浦さんと約束とかは?」
「なっちゃんは毎年家族で温泉行ってていない…シーズンオフだから安いって…」
「そうなんだ」

菅原は相槌を返すと思案顔になった。
それを見上げながら遥は逆の方向にまた首を傾げて質問を返す。

「菅原は…?」
「俺?俺はまぁ一応家ぐるみで付き合いあるから幼馴染みと毎年どっか出掛ける感じだったんだけど。でも今年は…」

菅原は赤らんだ頬を隠すように一瞬マフラーに顎を埋めると立ち止まった。
一緒に足を止めた遥のまっすぐな視線を見返しながら思いきったように口を開く。

「…千葉、あのさ。今年のクリスマス、一緒に過ごさない?」

その誘いに遥の瞳に喜色が浮かんだ。
嬉しそうに破顔すると、いつになく弾んだ声音で何度も頷く。

「…うん…過ごそ…?」

輝かんばかりのその表情に嘘や気遣いは微塵も感じられず菅原はつられたように嬉しそうに笑いながらおどけて胸を撫で下ろした。
綺麗に並んだ白い歯を見せ、「良かった」と笑う。

「…でも…部活は…?」
「あるにはあるけど、25はオフ。代わりに24と26はミッチリだけどね」

あー怖い怖い、とそれでも楽しそうに言う菅原の横顔に遥はじっと見入った。
が、やがて菅原が話題を持ちかけたことでその眼差しはふっと揺れる。

「どこ行こっか?」
「…遊園地とか…?」
「いーね。あ、ちょっと見てみよっか」

菅原は機嫌よく言ってこの近辺の遊園地を携帯で調べ始めた。
スマートフォンの表面をツツーッと指が滑るのを眺めていると、不意に白くふわりとしたものがそこに落ちてきた。

「あ、雪だ」

一瞬で溶けてなくなったそれに菅原は声を上げた。
菅原が空を仰いだのにつられ遥も上を向くと、なるほど白いものが音もなく舞い落ちてくる。

「どおりで寒いと思った。ぼたん雪だね、積もんのかな」
「……」
「千葉?」

菅原は呟いたそれに反応しなかった遥を不思議そうに見やった。
すぐにその視線に気付いたらしい遥は困ったように眉尻を下げて謝罪する。

「…ごめん…」
「いーよ、でもどしたの?空に気になるものでもあった?」

菅原は優しく言うと改めて空を見上げた。
白を溢す雲は灰色で、その隙間には濃紺が覗く。

「……綺麗だったから」
「?」

菅原はぽつりと漏らされたそれに怪訝そうな顔をした。
それに気付いてか気づかずか、遥は淡々とした声音で先を続ける。

「降ってくる雪が綺麗だと思ったの…初めてかもだから…」

陽も暮れたこの時間にゆっくりと降り落ちてくる雪はなるほど幻想的で、確かに「綺麗だ」と感じさせた。
菅原は雪を受けるように軽く手を持ち上げている遥を見つめた。

ふわふわとした髪に雪がついたのを柔らかく払ってやりながら、同意を口にする。

「……確かに、綺麗だよね。寒いけど」
「…菅原と逢ってから」

遥はいまだにじっと空を仰ぎながら小さく口を開いた。

「菅原と逢ってから、いろんなものが違う…」
「へ…?」

そして続けられたそれに、菅原は瞠目する。
遥は気にした風もなくしばらくぼんやりしていたが、やがてわずかに瞳が揺らいだ。
何かを思い出したのか、ふっと口元に笑みを浮かべると呟く。

「……そっか」

顔を上げていたのを元に戻した遥はぱたりと腕も下ろした。
肩にかけていた鞄を持ち直すと独り言のように繰り返す。

「なんか…わかった…」
「??」

遥はひとり何やらふむと頷いていたが、やがておもむろに菅原の腕を取った。
軽くぶつけるようにして胸に抱き込むとそのまま菅原を見上げて微笑みかける。

「……行こ…?」
「!あっ!うん!」

寄り添い合った二人は雪の中をゆっくりと歩き出した。
時折顔を見合わせては笑い合って、少しずつ積もり始めた雪に一本の傘を差す。

そうしながら遥は、いつか友人に言われた言葉をじんわり噛み締めていた。

『これを機会に、あんたも恋してみればいいんじゃない?』
『楽しいよ〜、世界が全然違って見えるっていうの?』

雪は真っ白なのに、空はとても暗いのに、遥の世界は確かに鮮やかに彩られていた。




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