写真




「おお、千葉結構写ってんべ」
「菅原も…」

文化祭に体育祭と、結構な行事をふたつも終えた秋のある日。
写真部が回してきたミニアルバムを覗き込みながら菅原と遥はのんびりと昼食を共にしていた。
外はすっかり肌寒くなり、教室は必然的に人口密度が上がる。

「千葉のクラスの模擬店、焼き鳥だったよなー。結構うまかった」
「菅原のクラスなんだっけ…?」
「うち?ミニピザ、忘れた?」
「…思い出した……」

ミニアルバムは複数あるらしく、周囲の席でも同じような冊子がパラパラと捲られていた。
菅原はゆっくりとページを繰りながらおっと声を上げる。

「あ、ここから体育祭だ。千葉のスライディング写ってる」

菅原は思い出して眉尻を下げながらも笑った。
遥はどこか満足そうに見える表情で小さくガッツポーズをとって見せると主張する。

「……頑張った…」
「そっか、頑張ったか。にしてもよく撮れてるなー」
「…また菅原…」
「どれどれ」

温い教室の中、隅の席を陣取った二人は仲良く会話を弾ませていた。
いつしか昼食は終え、ジュースを手にめいめい腹を落ち着ける。

「そーいえばツーショットってないよね」
「……欲しい…」

不意に、菅原が思い出したように言った。
以前、水族館に行ったときや美術館に行ったときに多少写真は撮ったが、どちらも互いを写すだけで二人ならんだ記憶は皆無だ。

菅原が考えにふけっていると、遥がストレートに願望を漏らす。

「俺も。今度出掛けたら、撮ろ?」

菅原は微笑んでそう誘った。
遥も瞳を輝かせて微笑み返す。

「…うん…」

菅原ははにかんで笑う遥に瞳を緩めていたが、次のページを捲った瞬間勢いよくアルバムを閉じた。
発生した風圧で前髪と遥の髪がぶわりと舞い上がったが、見付けてしまったものに動揺する菅原にそれを気にする余裕はない。

「……どうかした…?」
「や!なんでもない!」

マイペースに首を傾げる遥に菅原はあわてふためいて答えた。
が、勿論説得力など皆無なわけで、遥はちょっと考え、ぽつりと聞く。

「……変な写真でもあった…?」
「えっ!?あ、あぁうん!ちょっとなんか見たら呪われそうな系の奴がね!」
「……心霊写真…?」
「うんうんなんかそんな感じ!」

菅原は青い顔で捲し立てるように言うとさっとアルバムを自分の後ろに隠した。
遥はそれを見つめながらも顎のあたりを袖で小さく擦り、不思議そうにしていた。
が、結局特に追求することはせずに卓上に置いていたジュースに口をつける。

菅原は遥の様子にほっと息をつくとこっそり後ろ手に持ったアルバムを睨んだ。
その顔は一転して赤くなり、照れたような困ったような、それでいて怒ったような複雑な表情を浮かべる。

「………」

菅原は遥の興味が写真から外れたらしいことを確認すると、さっき目に飛び込んできた写真を思って前髪のあたりをくしゃりと揉んだ。
赤みの引かない頬がひどく熱い。

写っていたのは、体育祭にて思わず遥を奪い去った時の、借り物競争でのワンシーンだった。

菅原はなんてとこ撮ってくれてんだ写真部、と内心毒づいた。

「シャッターチャンスは逃しません」とばかり親指おっ立てる写真部部長が脳裏を過り、やがて菅原はがっくりと肩を落とした。
遥が首を反対側に傾け、不思議そうにそれを眺めていた。




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