君の好きなもの


「食べ物…」
「んー、好きなのは激辛麻婆豆腐で嫌いなのは…」

翌日の昼休み、中庭に菅原と遥が並んで座っていた。
通りすがりの生徒たちが会話を小耳に挟んでは首をかしげて去っていく。

「…何やってんだあれ」
「あー、お互いを知る会だって」

それを見かけた澤村はただ疑問を口にした。
東峰がさらっと答えを返すと澤村は怪訝そうに睨み上げる。

「…なんでお前がそれを知ってんの」
「千葉さんうちのクラスだよ!朝入り口んとこでスガと話してんのが聞こえたの!」
「…へーぇ?」
「痛っ、なんで蹴んの!?」
「ん?」

東峰が蹴られた理由なら「自分だけ事情を知らなかったことによる八つ当たり」以外の何物でもなかったし、蹴られた当人も当然見当はついていた。
ついていたが、にっこり笑顔を向けてくる澤村に彼が逆らう術を持っているはずもなく。

「…ひげちょこめ」
「今それ関係ないだろ!?」

理不尽な悪態に東峰は半泣きながら、そのまま澤村と連れ立ってその場を後にした。





○●○●○





「千葉さんは何好きなの?」
「…ん…クリームパン…」
「甘党なんだ?」
「…どっちかといえば…」

少し離れた場所でのやり取りなど知りもしない二人はのんびりと質疑応答を重ねていた。
双方ふわふわとした髪を風に遊ばせる。

「んーとじゃあ次は…好きな色とかある?」
「…色……あんまり意識したことない…」
「あー。まぁ意外とそうかもね」

菅原の問い掛けに遥は少し首を傾げてよどんだ。
菅原は同調を示すように頷きながら微笑みかける。

「…でも菅原の髪みたいな柔らかい色は結構好き…」
「!」

その笑みに答えるように遥は表情を和らげて付け加えた。
菅原が目を見開いて硬直する。

「…それはその…ありがとうございます…」
「…菅原は…?」
「えっ俺?…俺は…んー…」

一方の遥はなんともマイペースに質問を投げ掛けた。
我に返った菅原もそれに倣い答えを絞り出す。
そんなやり取りを繰り返すうち、不意に菅原はその視線に気付いた。
そっと遥を見やれば自分が映り込んだ瞳とぶつかって一瞬ドキリとする。

「…俺の顔なんか変?」

菅原は平静を取り繕うとぺた、と自分の頬に触りながら尋ねた。
その動作にか質問にか、遥は不思議そうに小首を傾げて聞き返してくる。

「?ううん…なんで…?」
「や、じーって見てるから」

菅原がそう答えると、遥はそのままじっと見つめてきた。
見られている方はただドギマギしながら指先まですっぽり覆った袖口に隠された口が音を紡ぎ出すのを待つ。

「…笑わないかなと思って…」
「?笑う?」

やがてぽつりと呟かれたそれに今度は菅原が首を傾げた。
遥は頷き、そして口元にやっていた手を下ろした。
あらわになった口の端をやんわり上げて言い加える。

「ん…菅原の笑った顔…なんか好き…」

菅原の顔がぼっと赤く染まった。
慌てて遥に背を向け手の甲で顔を覆えば不満げな声が追いかけてくる。

「…顔隠したら見えない…」
「いやいやいや無理!笑うっていうかにやけてる絶対!」
「!…見たい……」
「やーめーてー!!って力強っ!何これ!?」

空いていた側の手で押さえようとするも遥は瞳をきらきらさせて身を乗り出していた。
表情にはあまり変化はないが、心なしか楽しそうにも見える。

「ダメだってばコラ!メッ!」
「やだ…」

終盤になれば菅原はパニックになりすぎて最早自分が何を言っているやらほとんど自覚はなかった。
一方の遥は菅原にのし掛かってそして笑っていた。
仲睦まじい様子のその頭上を、数羽の鳥が小さく鳴きながら軽やかに飛び去っていった。



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