君の服






へそがちらちらと見える丈の上に、短いスカート。
手にしたポンポンはキラキラ輝き、夏帆はいじっていた遥の頭を満足げにひとつ叩いた。

「はい、出来た」

ふわふわと背中を流れていた髪は後頭部高くで団子ヘアーにまとめられていた。
遥はさして興味も無さそうに衣装とは微妙にちぐはぐな印象を与える自前の黒いハイソックスを見つめた。
膝から下をぷらぷら揺らし、ゆっくりと目を伏せる。

「わー、いいじゃん」
「チア似合うー」

クラスメートの女子たちが集まってきゃっきゃと騒ぐが、遥は寒そうに剥き出しの腕を擦るとさっさとカーディガンを羽織った。
襟元からかき寄せ、前を出来るだけ狭めれば、その裾から短いスカートがほんのわずか覗くだけになる。

「サイズはいいね。えっと、全体集合何時だっけ」
「まだ時間あるよー。11時半だもん」
「そっかぁ」

遥はじっとクラスメートの話を聞いていた。
やがて、徐に座っていた椅子から立ち上がって教室の扉に手をかける。

「…私少し出てくる…」
「ん?あー、いいけど集合には遅れないようにね?」
「着替えの時間も考えなよ?」
「ん…」

遥はクラスメートたちの声に見送られ、教室を出た。
後ろ手にドアを閉め、俯いて一息吐いた後でゆっくりと顔を上げる。

「、」

そして遥は小走りにクラスをあとにした。
向かい風に淡い色が揺らめき、後れ毛をなびかせていた。





○●○●○




「…、」

しばらく駆け回り、辿り着いた階段の踊り場からきょろっと下を見渡すとすぐさま探す色は見つかった。
澤村と二人並び、のんびりした足取りで何かダンボールを運んでいる。

「…、菅原…っ」

遥は弾む息を抑え呼び掛けた。
菅原はピタッと足を止めると目を見開いてこちらを向く。

「…千葉?」
「…あ…えと……」

遥は踊り場の手すりにつかまったまま口ごもった。
菅原は目をぱちくりさせてそれを見上げていたが、やおら澤村に向き直ると言葉を交わす。

「ごめん大地、俺行ってきていい?運ぶのやっとくし」
「ん?別に一人で持てるくらいだから俺持ってくぞ、乗せろ」
「まじ?悪い、今日肉まんおごる」
「お、ラッキー」

下であれよあれよという間に進められるやり取り。
遥はとりあえず去り際の澤村の会釈に小さく手を振ると、軽やかな足音が近付いてくるのを待った。
足音がすぐそこに聞こえたところで、壁を背にゆっくりと座り込む。

「千葉」

菅原は間もなく現れた。
優しい笑顔を浮かべ、遥を呼ぶ。

「…邪魔だった…?」
「そんなことないって。来てくれて嬉しい」
「…よかった…」

菅原はよいしょ、と自分も座るとにっこり遥に笑いかけた。
そしてカーディガンの下から覗く制服のものではないスカートに気付いて尋ねる。

「あ、それチアの衣裳?」
「…ん…」

遥は頷くと曲げたままの両腕を軽く広げてみせた。
ボタンを留めていないカーディガンの隙間が開き、衣装をあらわにする。

「…………すげーかわいい」
「…!」

菅原はじっと見つめた後、手の甲で鼻を擦るようにして口元を隠しながらぼそりと漏らした。
遥の顔がぱっと輝き、頬が上気する。

「…ほんと…?」
「うん。…あ、でもそれ寒くない?大丈夫?」
「…寒い…」
「…ダヨネー」

菅原は赤らんだ頬のまま苦笑した。
それから学ランを脱ぎ、遥の肩にそっと着せ掛けた。
遥は目をぱちくりさせ、菅原を見る。

「……これ、」
「着てて。俺今そんな寒くないし」
「…ありがとう……」
「どういたしまして」

菅原は遥が学ランに袖を通すのを眺めながら膝の上で腕を組んだ。
それから自分の爪に視線を移し、やがて小さな声で語り掛ける。

「俺の方こそ、ありがと」
「?」
「見たいっつってたの、聞いてくれたっしょ」

遥はどう答えようかと少し迷った。
思い付いた時こそ覚えていたが、そこからは今の今まで忘れていた。
けれど結局菅原に見てほしいと思ったことは、隠しておくことにする。

「……ううん…菅原の学ランも着れたし…満足…」
「……!」

遥は照れ笑いながら言った。
菅原の顔が耳まで赤くなる。

「……学ランくらい、いつでも貸すよ」
「…わーい…」

膝に突っ伏した菅原はぼそぼそと言ってちらりと遥を見た。
だぼだぼの袖を口元にやりながら、遥は嬉しそうに微笑んだ。

階下から聞こえる生徒達の笑い声が和やかだった。




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