君と歩む




「あっ!お姉ちゃん!」
「こーちゃん!」

二人が戻ると、それぞれの少女は目当ての相手に飛び付いた。
遥の肩を痛いほどに握り締めた沙生は、激しく揺さぶりながら声を荒げる。

「大丈夫!?変なことされてない!?」
「…すーちゃん心配症…」
「ちょっと!こーちゃんがそんなことするわけないでしょ!ねぇ!?」
「あー、うんまぁしてないけど…」

それに対し苛立った声で言うのは菅原の幼馴染みだ。
同意を求められた菅原は曖昧に相槌を打つ。

「…「けど」…?」
「…したいと思ってはいるかもよ?」

菅原は手を繋いだままの遥に顔を向けるとニッと歯を見せた。
遥は虚をつかれたような顔になり、そしてゆっくりと表情を和らげる。

「なーんちゃっ…」

菅原が茶化すように濁そうとした、その時だった。
視界の隅、わなわなと震えていた沙生が全身で姉に抱き着き地を這うような低い声音で呪詛を吐く。

「お姉ちゃんから離れろケダモノ…!」
「あー…はは…」

そしてその呪詛にまた少女が吼える。

「ちょっと!こーちゃんのどこがケダモノよ!?」
「ケダモノじゃん!ってあーあーそっかそっか!あんたに対してはケダモノにならないからわかんないのか!」
「こっ、こーちゃんは紳士なの!お子様にはわかんないの!」
「紳士が笑顔で変なことするかも宣言するかぁ!!」

白熱する低俗な言い争い。
当事者であるはずがもはや蚊帳の外の菅原と遥はただギャーギャーとやかましいそれを眺めた。

「……仲良し…?」
「…うんまぁ…喧嘩するほどなんとやらとは言うね…」
「…すーちゃん楽しそう…」
「…楽しそうなんだ、あれ…」

菅原は苦笑した。
それを横目に、遥がぽつりと漏らす。

「…すーちゃん失礼なこと言ってごめんね…」
「ん?いーよ、良い子じゃん。お姉ちゃん思いでさ」

菅原は朗らかに言ってにしし、と笑った。
遥はゆっくりと瞬きしながら少し首を傾げて続ける。

「…菅原のことも気に入ると思う…」
「だったら嬉しいけど。…っと」
「?」

遥は不意にじっとこちらを見つめる菅原に首を逆の方向に傾げた。
拗ねたような面持ちの菅原が、唇を尖らせたのに眉尻を下げる。

「もう呼んでくんないの?」
「…?」
「名前」
「…………………」

遥は頬をさっと染めると俯いて口を小さくパクつかせた。
目は前髪がかかって見えないが、その分動揺がより伝わってくる。

「……孝支、くん…」
「…ん?何?遥」

遥は顔を上げた。
優しく、そして愛おしむように笑う菅原に目元をじんわりと緩めそしてにこ、と破顔する。

遥は菅原の肩に軽く額を寄せた。
菅原は一瞬体を跳ねさせたがすり寄る遥に固くなりながらもやりたいようにさせてやる。

「…遥、」
「…ん…何……、!」

そしてその間、菅原は2、3度繋いだ手を離すような素振りを見せていたが、徐にそれは指を絡めてより遥の手をしっかりと握った。
菅原の肩から頭を上げた遥は、目をぱちくりさせる。

「こっちのがよくない?」

悪戯じみた笑顔で言う菅原に遥の心臓はきゅんと締め付けられた。
唇を堪えるようにへの字に曲げていたが、不意に緩んで弧を描く。

「…ん …こっちのがすき…」

遥ははにかみながらも嬉しそうに言った。
菅原の瞳が眩しいものを見るように細まり、そしてその肩に遥はまた頭を預ける。

菅原はちらと遥の横顔を見て、笑った。
そして空を振り仰ぐ。

すっかり冷たくなった秋の風は澄んでいて、時折色を変えた街路樹の葉を踊らせた。
ひんやりした空気の中、繋いだ手にともる温もりが心地好かった。



連れ二人の喧嘩は、陽がすっかり傾くまで続いていた。




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