修羅場






あれから、菅原は事実をこんこんと説明し。

「…そういうことなら…」
「千葉…」

遥も納得し、ほっとして改めて明日の約束を取り付けたのだが。







「なんでいんの」
「私だってこーちゃんと遊びたいもん!別にいーじゃない、ねーぇ?」

待ち合わせ場所には、何故か幼馴染みの姿があった。
遥は待ち合わせの指定時間に十分な余裕を残してふらりと現れる。
心底ガッカリした顔の菅原に少女は得意気に笑んで見せた。
遥は無表情に流れ行く雲を眺めている。

「…千葉、どうしよ。行ってみたいっつってたとこ行き方調べては来たけど」
「…任せっきりでごめんね…せっかくだし行こ…?」

菅原は携帯を掲げながら気遣うように遥を見た。
少し考えた遥は首を傾けて言う。

「何?どこ行くの?」
「美術館。千葉彫刻好きだもんな」
「…ん…彫るのも見るのもすき…」
「えー…」

しかし、行き先を聞いた少女は大いに不満げだった。
すかさず菅原の腕にくっつき、甘えるようにその顔を見上げる。

「美術館なんてつまんない。遊園地とか行こうよ」
「それお前が行きたいとこじゃん」
「だってこーちゃんだって美術品なんてわかんないでしょ、絶対つまんないよ」
「あのな…勝手についてきといて…」

流石に呆れ顔の菅原、しかし不意に服の裾が引かれそちらを向く。
菅原の服をつまんだままの遥は宥めるような声音で言った。

「…菅原…他のとこでもいいよ…?」
「でも千葉、行きたいんだって言ったべ?千葉が好きなもんなら、俺もちょっとくらいわかるようになりたいし」

向き直って言われたそれに遥の頬が紅潮した。
首に巻いたフワリとしたストールに口元を埋め、少し目を伏せる。

「……さてと、んじゃ美術館行こっか。バスあっちだよ」

菅原は然り気無く少女から腕を引き離すと遥を待った。
隣に並び、足取りを合わせて目的の方向に歩く。

「…っ」

その後ろをついていかざるを得ない少女は思いっきり膨れっ面でのろのろと歩き出した。
手こそ繋いではいないけれど、時々顔を見合わせては緩やかな笑顔を交わし合う二人は酷く腹立たしかった。



○●○●○





「思ってたよりかなり面白かったなー」
「…なら…良かった…」
「また行こ?」
「…うん…」

美術館を出た菅原は機嫌よく言った。
ほっと胸を撫で下ろした遥は表情を柔らかくして同調を示す。

しかし、その後ろでぐちぐちと不満を漏らすのが一人。

「こーちゃん私疲れた〜、お腹空いたし喉カラカラ〜」

菅原はがしがしと頭をかきながら溜め息をついた。

「…はー…わかったよ…。でもそれで終わりだべ」
「?終わりって」
「千葉、どっか入っていい?そこで帰らせる」
「…ん…」

遥はこっくりと頷いた。
そこに嫌味も安心も見えない。
が、それはそれで腹立たしく少女は菅原に食って掛かる。

「なんで勝手に決めんのー!?」
「もーダメ。大体、勝手についてきたのはお前なんだから」
「やだやだやだ〜!まだこーちゃんといるの〜!」
「ダメったらダメ!」

平行線を辿るやり取り。
普段なら菅原が適当なところで折れているが、今回ばかりはそうもいかぬとしかめ面だ。
遥は無言でぼんやり成り行きを見守っていたが、不意にぽんと手を打つ。

「……あ…そだ…」

漏れ聞こえた声に菅原は表情を和らげて遥を見た。
首を傾げ、優しい声音で先を促す。

「ん、どしたの千葉」
「…ん…あのね…うちの家族が菅原見たいって…」
「…見たい?」
「…うん…」

菅原は目をぱちくりさせていたがやがて焦ったようにそれを泳がせ始めた。

「えっと、それは…」
「…ダメ…?」
「いや、行きたい…んだけど。結構いきなりというか、手土産とかないし…」
「…気にしなくていいよ…?」
「気にさせて、そこは」

菅原は苦笑混じりに遥の頭を撫でた。
撫でられている間、はにかむように笑みを浮かべた遥は菅原のシャツの裾を握っている。

目の前で繰り広げられる甘い二人の世界に、少女はいきり立った。
鼻息も荒く邪魔することだけを考えて口を開く。

その時だった。

「あああああ!!」

大音量が三人の鼓膜を直撃した。
突然のことに音の発生源を確かめようときょろきょろしていると遥が「あ」と呟く。

「すーちゃん…」

遥の視線の先には沙生がいた。
ただでさえ面倒な状況が更に面倒なことになったのは明らかだった。




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