額合わせ




放課後のわずかな空き時間の教室、目の前に広げられたテストの点数は、どれも平均点の前後十点以内といった結果だった。
とはいえ、それはこれまでの成績(ほぼ毎回全科目赤点)を考えれば相当な進歩であり。

「おーエライエライ!頑張ったな」
「…ううん…菅原のおかげ…」
「なーに言ってんの、千葉が頑張ったからだろ?やーしかしほんと伸びたなー」

菅原は我がことのように喜んで遥を誉めた。
勉学で誉められることなど皆無といっていい遥は嬉しそうな顔で頬を染め、よしよしと頭を撫でる菅原の手のひらを堪能する。

「…菅原…私に教えて成績落ちたりしなかった…?」
「ん?してないよ?むしろ何科目かは上がったかな」
「…なら、良かった…」

途中遥は気にかかっていたことを尋ねた。
が、あっさり返された答えにまたほっと頬を緩めると菅原はそうだと不意に手を打った。
いいこと思い付いたと言わんばかりの楽しげな表情に首をかしげれば、菅原はそのままの笑顔で口を開く。

「テストも終わったし、どっか遊び行かない?打ち上げがてらさ」
「部活は…?」
「休みの時に。…まぁ休み少なくなってんだけど、半日とかなら空いてる日もあるからさ。近場とかになっちゃうんだけど」

「駄目かな」と菅原は心配そうに眉を下げて言った。
遥はふる、と首を横に振り、指先付近まで覆っていたセーターを少し引いて立てた小指を差し出した。
目元を和らげそれをする遥に菅原はほっと眉から力を抜きそして指切りに応える。

「…空いてる日わかったら早目に教えて…?」
「うん。すぐ言うよ」
「約束…」

絡んだ小指は、互いの体のパーツでは比較的小さなものだというのにそれでもその大きさの違いは顕著だった。
遥はしばらく自分のものに巻き付いた菅原のそれを見ていたが、おもむろにもう片方の手で握ってみる。

「?どしたの?」

菅原はしたいようにさせてやりながら子供をあやすように指を揺らした。
つられて手を腕ごとゆらゆらさせていた遥はふるりと首を横に振る。

「なんでもない…ただやってるだけ…」
「そっか?」

遥はそこからもしばらく菅原の指を触っていたが不意に何かに気付いたようにあ、と漏らした。
揺らすのをやめ、心配そうに触れるだけにとどまる。

「…あんまりやると指痛める…?」
「力一杯握られたんじゃないし全然平気だよ」
「…そか…」

菅原の答えに遥はほっとしたように言った。
が、もう手遊びのようなことはせず、ただ握る。

「今日部活何時まで…?」
「今日?…6時半くらいかな。最近暗くなんの早いし」
「待ってていい…?一緒帰ろ…」

遥の言葉に菅原は複雑そうに唸った。
駄目?と首をかしげられて、そうじゃないけどと否定の言葉を置いてから問いかける。

「嬉しいけど…待つの退屈じゃない?」
「何なら寝てるから大丈夫…」
「…そっか」

菅原はにこりと笑った。
こつりと額を小さく合わせ、囁くように言う。

「じゃあ、待ってて?」
「…うん…」

触れ合ったところに感じる熱に遥はきゅっと顎を引き肩をすくめた。
いつしか合わせた手のひらは互いに熱く、それでも離そうとはしないで重ねたままだ。

「……千葉」
「…何…?」
「………んーん。何でもない」

菅原は最後に一瞬だけ額を離しまた軽くコツンと合わせてから今度は本当に離れた。
その間際、遥の後頭部のあたりの髪をくしゃりと撫でる。

遥は触れられたあたりを両手で押さえながら菅原をうかがい見た。
照れるような、それでいて悪戯じみた笑顔にやがて遥も笑顔が浮かぶ。

「じゃあ、後で」
「…うん…頑張れ…」

首を傾け合っての笑顔が秋の陽射しに滲む。
その傍らで、数枚のテストが風にぱらぱらと持ち上がっては落ち着くことを繰り返していた。

ふくらんだカーテンが音もなく教室の床に影を作って遊んでいた。




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