俺だけの特別な呼び方

アホ女と呼ばれることに特に不満はないつもりだった、けれど付き合い始めてからも呼び方に変わりがないとそのことを不満に持つのは当たり前のことだとハルは思った。小さく名前で呼んでほしいです、なんて呟いてみればいつの間に獄寺は隣を歩いていた。相変わらずハルをアホ女と呼び、名前で呼ぼうとはしない。ハルはむうと頬を膨らませ、獄寺と反対側を向きながら歩き顔を合わせようとはしなかった。その態度が獄寺の気に障り、ハルを怒鳴りつけた。

「何だよ今の態度は!アホ女、俺何かしたか?」

なにも分からないと言った表情の獄寺にさらにぷつんときて、ハルはべえと舌を出して小走りに去っていく。そんなハルを獄寺はわけわかんねえと頭をかきながら呟いた。その二人の様子を見ていた人物が後ろから獄寺に近づいてきた。そして喧嘩なんて珍しいな、と言った。獄寺はああ?と睨みつけた。後ろから近づいてきたその人物はにっこり笑顔を浮かべる山本だった。

「俺が何したってんだよ。ほんと意味わかんねえ」
「お前が何かしたんだろうな」

そう決め付けて山本は笑って獄寺の横を通り過ぎていった。獄寺は山本を思い切り睨みつけたが本人はとくに気にした様子もなく、校門をくぐっていった。獄寺を髪をくしゃとかいてからもう一度意味わかんねえと呟き、歩き始めた。

***

「で、何怒ってんだよ。言ってみろ」
「は、ひっ!お、怒ってるのは獄寺さんの方じゃないですか!」

放課後門で待ち伏せされたハルは仕方ない獄寺に連れられ、近くの公園のベンチに座っていた。怒ってる理由を聞いてきたときの獄寺の顔を見た瞬間ハルはビクつき、そう言うが獄寺は怒っていないと言い張る。ハルも負けじと言い返すのだが、獄寺は『怒ってねえ』としか言わないのでハルは諦めしぶしぶと話し始める。自分を何で名前で呼んでくれないのか、それがとても悲しい、自分の思いをそのまま告げた。

「そ、それは…その、なんつーんだ。あれだ。あれ」
「あれ、じゃ分からないです。ちゃんと言ってください!」
「だから…あーもうめんどくせえ!だからな、他の奴らと同じ呼び方で呼びたくねえんだよ!」
「は、ひ?どういう意味です、か?」

ポカンとするハルに獄寺はめんどくさそうにため息をついて耳元で囁いた。その言葉にハルは顔を真っ赤にして、幸せそうに、そして嬉しそうに微笑んだ。


俺だけの特別な呼び方
(ハルって普通に呼んだらつまんねえだろうが)


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