欲しかったのはその言葉

▽いい夫婦の日記念


夫婦になっても相変わらず喧嘩ばかりの毎日にハルは少し飽きていた。たまには甘い言葉の一つや二つが欲しいというのに、獄寺はハルの顔を見れば「アホ女」と呼ぶばかり。しかも特に用もないのに呼ぶことさえあるのだ。今日の朝も「アホ女」と言われたことを思い出して一つため息をつく。そして一番やさしかったのは結婚前の1週間だったなあ、なんて思い出してみる。

「おい、」
「…」
「おい!アホ女聞こえねえのか!」
「聞こえてますよ!いちいち怒鳴らないでください!」

また名前を呼ばずに「アホ女」と呼んだ獄寺にハルは思わず大声で答える。すると獄寺は驚いたように口をぽかんと開けている。けれどハルはそんなことも気にせず、不満を爆発させた。

「隼人さんは私が嫌いなんですか?嫌いだから、いつまでも名前を呼んでくれないんですか?…好きとか、愛してるとか言ってくれないのも嫌いだからなんですか?」

ボロボロと涙を流しながら、しかし獄寺の瞳をしっかりと見つめながらそう言う。ハルが今まで隠してきた気持ちを知った獄寺はぐっと唇をかんで、自分を自分で殴った。痛々しい音が響く。ハルは突然の出来事に言葉を失って、驚きのあまりに口元を両手で押さえた。獄寺はそんなハルをグイッと自分の胸に抱き寄せた。

「…悪かった」
「え?」
「…嫌いな奴の傍になんかいるわけねえだろうが」
「隼人、さん?」
「心配しなくても…愛してるから」
「…っ!」

耳まで真っ赤にして、いつ振りかわからない愛の言葉を獄寺は囁いた。その囁きにハルは満足そうに笑って、返事のかわりに頬にキスをした。


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