下手くそであったかいキス

キスがうまいわけではない。気の利いた言葉が言えるわけでもない。女から見れば、自分は彼氏にしたい対象ではないと獄寺は思っていた。だから、自分と付き合っているハルのことを物好きだと思っている。もっと他にいい男がいる、と思っているが口に出したことはない。離れたくはないから。自分よりいい男がいるのは分かってるけど、ハルと離れるのはどうしても嫌だった。それほど、獄寺はハルに惚れているのだ。

「獄寺さーん」
「ああ?」
「ハル、どうしても獄寺さんと一緒に帰りたくて…一緒に帰りましょう?」

にっこりと笑顔を浮かべて首を傾げるハルは、すごく可愛い。獄寺のために必死で走ってきたのか、額にきらりと汗が光って見えた。こんな暑い中、自分のために走ってきたのかと思うと、嬉しくてたまらない。

「…アホ。もし俺がもう帰ってて学校にいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「それならそれでいいです。ハルが、会いたくて勝手に来たんですから。また明日、今度はもっとスピードを上げて走って来ます!あ、でも、汗臭い女の子なんて嫌、ですよね。困りましたね…」

真剣に悩むハルの姿がたまらなく愛しく感じる。獄寺は思わずハルを抱きしめて、キスをしていた。2度目のキス。あまり上手じゃないキス、獄寺の歯とハルの歯がぶつかる。けれど痛みより、幸せを感じることができた。

「…獄寺さんのキス、とてもあったかいです」
「うっせ。思い出させんな…」
「獄寺さんからキスしてきたんじゃないですか。何で恥ずかしがって…んっ!」
「黙ることが出来ねえみたいだな。俺がその口ふさいでやる」

そしてもう一度獄寺はキスをした。


下手くそであったかいキス
title by 31D


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