泣いてる君をほっとけない

ハルは夢を見た。すごくすごく長い夢を。その夢は胸を思い切り締め付けられるほど切なくて、苦しいもの。寝苦しい、とかそういうレベルじゃなくて、誰かに首を締められているみたいに息がうまくできない。目が覚めれば、ハルは涙を流してハァハァと息が上がっていた。そのときには内容は覚えていなかった、頭からスッポリ抜けているのだ。涙が出るほど、切ない夢なら覚えていなくてもいい。寧ろそれでいい。そう思ったけど、ハルはモヤモヤとして気持ちでいた。忘れていいものだったのか、とか思い出さなくちゃいけない。そんな気持ちも自分の中にあった。

ハルは怖かった。夢を思い出すことで、また苦しい思いをするのかと思うと怖かった。
咄嗟にハルは山本に電話をした。声を聞きたかった。安心したかった。

『ハル、どうした?』
「山本、さ、んっ。あ、の何となく声が聞きたくなったんです」

山本の声を聞いた瞬間、安堵の表情を浮かべるハル。そして、こぼれる涙。山本の声を聞くと、心が温かくなってとても安心できた。

『…ハル、泣いてる?何かあったのか?』
「たいしたことじゃ、ない、です。怖い夢、見て…少し不安になって」
『…じゃあ、俺今からハルのとこ行く』
「え、や、まもとさん?」
『好きな子が泣いてるのにほっとくわけにはいかないからな』

そう言って通話をきる山本。ハルはいまだに状況が把握できずにボーッとしていた。しかし数十分後に鳴ったインターフォンを聞いて、やっと支度を始めたのだ。


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