「兄さんがその手を離せばいい」
「…っ、雪男が離せ!しえみが困ってんだろうが!」

奥村兄弟が争うことになった原因であるしえみは、この二人の争いをのほほんと微笑ましく眺めていた。仲良しだねえ、なんてふにゃりと笑いながらのんきに言えば、雪男と燐は大きなため息をついた。争う原因はあなたですよ、と言いたいところだが雪男はにこりとしえみに笑いかけて、再び燐の方を向いた。

「しえみさんは、僕と出かける約束をしていたんです。兄さんは邪魔しないでもらえますか?」
「そんな約束しるか!俺だって、しえみと出かけたい!…遊園地!そうだ遊園地に行こうぜしえみ!」
「遊園地…!」

思い出すように遊園地と叫ぶ燐にしえみは目を輝かせた。以前約束したことを思い出したのだ。しえみの目の輝きを見て焦りを感じた雪男は、どこからか遊園地のチケットを取り出した。ヒラッと燐に見せつけるように、左右にチケットを揺らす雪男。そして、不敵に笑う。

「しえみさん、今日は遊園地に行きましょう。ちょうどチケットが2枚ありましたので」
「うん!」
「なっ!し、しえみ!俺との約、束…っ」

燐が驚いた顔でしえみの名前を呼ぶが、しえみは遊園地のことで頭がいっぱいなのか振り向こうともしない。雪男はその様子を見て、勝ち誇った笑みを浮かべた。

「ゆ、雪男のばかやろおおおおお!」


どうしてもゆずれないもの
(っていう夢を見たんだ。だから、殴らせろ雪男)
(兄さん横暴すぎます!)
(りーんー!遊園地のチケット貰ったから一緒に行こう!)
(おう!…ということだ残念だったな雪男)
(…単純だね兄さん)


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