▽しえみに猫耳が生えるお話


猫耳が生える前の日、しえみの体には何の異常も見当たらなかった。いつもと変わらず、塾で授業を受けて、家に帰りご飯を食べお風呂に入り眠る。いつもと同じことをした。だから、しえみは次の日鏡を見て自分に生えた猫耳を見た瞬間驚いた。触ってみると本物の猫のような感触。もふもふと柔らかい毛。時折ピクピクと動きを見せる耳。しえみではこうなった原因が分からない。とりあえず塾へ行って皆に聞いてみようと思ったしえみは、急いで制服に着替え、頭にはニット帽をかぶり家を出た。

「よう、しえみ」
「あ、お、おはよう燐」
「杜山さん、そのニット帽かわえーよ」
「へえ、猫の耳の形になっとるんか」

感心したように笑顔でそう言う勝呂にしえみは、本物の耳だよ、とは言えるわけもなくただ苦笑いで答えた。どう皆に切り出すか、と考えているうちに授業が始まる時刻になってしまい、雪男が荷物を抱えて入ってきた。雪男はいつもと違うしえみの姿に気づき、声をかける。

「…しえみさん?室内では帽子は取りましょう」
「あ、の、その…」
「何か事情でもあるんですか?」

首を傾げて不思議そうに尋ねてくる雪男にしえみはこれ以上隠すことはできないと判断して、ニット帽を取った。ピクピクと動く耳、もふもふの毛、しえみに生えた猫耳を目にした瞬間、騒ぎ出したのは志摩だった。かわええと何度も連呼して、しえみの近くにやってくる。そして次の瞬間、耳を触っていた。

「杜山さん、ほんまかわええなあ。猫耳生えた杜山さんもほんま萌えr」
「ああ、うん志摩は黙っとこか?」
「いやでもまじでしえみ可愛い。しえみ、俺も耳…触っていいか?」

目を輝かせてそう言う燐に嫌だなんてしえみには言えなかった。触るだけなら別にいいよね、と思い「どうぞ」と言って燐の方を向くと燐は恐る恐る耳に触れた。本物の猫の頭を撫でるように優しく撫でる燐の手は何だか気持ちよかった。ふにゃりと頬が緩むしえみを見て、燐はドキリと胸が鳴る。調子に乗ってずっと撫でているとしえみが思わず違う意味でドキリとする声を漏らした。

「ん…っ」
「「……!」」
「ど、どどどど、どうしたしえみ?!」
「あ、少しくすぐったくて…」

燐が動揺しながら聞くと、しえみはふふと可愛らしい声で笑いながら言った。その笑顔はあまりにも可愛くて、今まで黙っていた出雲がしえみに近づいてきた。その顔はとても険しい。しえみは出雲を見つめて首を傾げる。その瞬間出雲の中で何かが切れる音がした。

「か、可愛い…っ!ほんっと何この生き物!あんた可愛くなりすぎなのよっ!」
「かみ、きさんっ。苦しい、よっ」

ぎゅうぎゅうとしえみを抱きしめる出雲。その様子を燐達は目を丸くして見ていた。すると志摩は思い出した。出雲が可愛いものが大好きなことを。「それにしてもすごい変わりようだな」と呟いた燐に志摩達も「そうやなあ」と頷いた。それと同時にしえみを出雲に取られたことを悔やんでいた。


ニット帽に隠された秘密


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