強く抱きしめられて逃げ場などどこにも存在しないことに気づいたときにはもう遅かった。噛み付くようなキスをされて、息もできない。けれど不思議と苦しくはない。寧ろ気持ちよさを感じた。基山は唇をゆっくりと離すと夏未に微笑みかけて、そしてまた口付けた。随分と長い間夏未の唇を堪能して、やっと唇を離したときには2、3分の時が流れていた。
「基山君…私の言いたいことは分かるかしら」
「んー…何だろう。分からないな」
「すっとぼけないの!こんなところでキ、キスなんてしたら誰かに見られるかもしれないでしょう…!」
顔を真っ赤にしもじもじとしながらそう言う夏未に基山は吹き出した。あまりの夏未の必死な表情が基山のツボに入ったらしい。普段の笑い方とは違い、腹をかかえて笑う基山に夏未はムゥと頬を膨らませた。それを見た基山は笑うのを突然やめて、夏未にググッと顔を近づける。夏未は突然の行動に驚き目を見開いた。
「…もうい…ど」
「え?」
「今の表情もう一度やってよ夏未さん。すごく可愛かったからもう一度見たいんだ」
ニコニコと笑って夏未の先ほどの表情を心待ちにする基山。だが夏未にはもう一度やって欲しいと言われてもやることはできない。可愛い、と言われて胸がドキドキとうるさいほど高鳴っているからだ。ブンブンと思い切り首を振って無理だと言うが基山も引き下がらない。ただずっとニコニコと笑って無言の圧力をかけてくる。夏未は観念したように息をふっとはいた後、先ほどと同じ表情をやって見せた。すると基山はそれは嬉しそうに笑い、夏未にとびつく。
そして最初に言われた言葉をもう忘れてしまったのか、夏未の唇を奪い微笑む。そんな基山に夏未は仕方のない人ね、と苦笑した。
どうしようもないくらいに君が好き
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