▽イナクロ軸/戦国時代/剣城視点

あまりに突然で、俺は一瞬間抜けな顔をしてしまった。空野は本当にただ純粋に、俺が持っている笛に興味があるらしく、瞳を輝かせながら少し貸してほしいと頼んできた。笛はもともと俺のものでもない、躊躇うことなく俺はそれを貸した。

「ありがと剣城君!」
「ああ」

別に大したことをしたわけでもないのに空野は嬉しそうにそれを受け取り、いろんな角度から眺め始める。何が楽しいのか分からないが嬉しそうに笑う空野を見たら、そんなこと分からなくてもいいと思った。空野の笑顔が見れただけで十分だと。
しばらく笛を眺めたあと空野は俺に遠慮がちに聞いてきた。「吹いてみてもいい?」と。俺は迷った。もうすでに俺が一度口をつけていたからだ。ただ一度軽く吹いてみただけだが、口をつけたことには変わりない。だったら断ればいいのだが、俺が口つけたから駄目だなんて言えば、変な雰囲気になるだろう。お互い気まずくなるのも必至だ。

「…剣城君?どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」
「本当?…まあいっか。それで吹いてもいいの?」

吹きたくてたまらず、うずうずしているのがよく分かる。空野は俺の返事を今か今かと待っている。そろそろ返事をしないと空野も痺れを切らすころだ。
よく考えればそんな大したことじゃないだろう。直接唇をくっつけるわけじゃない。ただ俺が口をつけた笛に空野が口をつけるだけだ。落ち着け、気にしすぎなんだ。

「好きにしろ」
「やった!剣城君ありがと!!」

普段の俺らしく表情には出さず返事をするが、内心は心臓がうるさいほど高鳴っていた。そんな俺の気持ちも知らずに空野はゆっくりと笛に唇を近づける。瑞々しい果実のように赤く、やわらかそうな唇がそっと、控えめに笛に触れた。
一瞬笛に嫉妬した。もしあの笛が俺の唇だったらと、変態のような考えさえ俺の頭をちらついた。ほんと、何考えてんだ俺は。ただのマネージャーだろ、空野は。…いや、本当にただのマネージャーなのか?まさか。
ひとつの結論にたどり着いた俺は赤くなった頬を隠すように手で覆った。

どうやらしばらくは空野の顔は見れそうにない。


高鳴るビート、高まるヒート
title by ロストガーデン


BACKNEXT


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -