▽剣城視点
鈍い痛みに気づいて指を見れば、爪が皮膚に食い込んで赤黒い液体が指を染めていた。チッと思わず舌打ちをすれば傍にいた山菜先輩がどうしたの、と近づいてきた。この人にバレたらめんどくさいことになりそうだと思った俺は思わず指を後ろに隠す。ぽやぽやしてる人だし、今の俺の動作を不審には思わないだろうと思っていたんだが、意外とこの人は鋭いらしく、ひょいと後ろに回した手を覗き込んできた。
「あ、血が出てる!」
「…大したことじゃないです」
「駄目だよ、止血しなくちゃ。こっちきて」
いいです、と断る暇も与えてくれずに山菜先輩は腕を掴み俺をベンチへと連行した。座ってと指示された場所に仕方なく腰を下ろせば山菜先輩は安心したように笑い、再び救急箱に視線を戻す。カチャカチャと何か器具同士がぶつかり合う音がしたと思えば山菜先輩の手にはピンセットと爪切りが握られていた。
どうするんですかと疑問をぶつけるのも忘れて俺はしばらく石のように固まっていた。だがすぐに我に返りその道具をどう使うのか尋ねた。
「えっと、今回の怪我は爪が原因でしょう?だから爪を正しい切り方で切って、食い込んだ衝撃で剥けた皮膚をこのピンセットで取ろうかなって。駄目だった…?」
やけに今日のこの人の言葉は妙な得力がある。普段はぽわぽわしてて電波出しては周りを驚かせる人なのに。どうしてこんなに真剣に考えてくれるんだろうか。って言っても多分この人のことだからただのお節介とかだと分かってる、けど、どうしても期待してしまう自分がいるんだ。何でだ。
「できたよ」
考え込んでいるときに山菜先輩の終わりを告げる声が聴こえてきた。治療された指を見れば、見慣れない柄の絆創膏が貼られていた。…これが子供や女子に人気のキャラクター絆創膏だろうか。確かに女子供が好きそうな可愛く書かれた動物がモチーフになっている。
だが、その可愛らしい絆創膏が俺の指に似合うかと言ったら否定するしかない。どう見ても男の骨ばった指にその絆創膏は不釣り合いだ。何だか絆創膏に描かれた兎がかわいそうになってくる。山菜先輩はどうして普通の絆創膏をつけてくれなかったんだろうか、と悪いのは山菜先輩ではないのについ当たりたくなってしまう。
「この絆創膏可愛いでしょ?特にこの兎さんが大好きなの」
でも可愛らしく笑って言う山菜先輩を見たら当たることなんてできなくなってしまった。あまりにも優しく嬉しそうに言うから。何だかこの指に貼られた兎の絆創膏が好きになれるような気がした。
彼女が好きな動物だから
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