▽狩屋視点

サッカー部には3人のマネージャーがいる。1年の空野さんに、2年の茜さん、水鳥さん。3人とも俺達の為に毎日汗水流して頑張ってくれている。普通女子ってそういう汗臭いこととか嫌いだから、こうして頑張ってくれている姿を見ると、俺も頑張ろうって気分になったりする。その中でも特に、茜さんが頑張っている姿を見ると、励まされる。あと、笑顔を見ると元気をもらうし、俺も嬉しくなる。

けど一つだけ俺が嫌いな笑顔がある。それは、神童キャプテンに向ける笑顔。神童キャプテン以外に向ける笑顔も勿論かわいいと思うけれど、一番はやっぱり神童キャプテンに向ける笑顔で、その笑顔を見るたびに胸が締め付けられて苦しくなる。
愛しそうに神童キャプテンを見つめた後、ゆっくりとカメラを構えて一枚写真を撮る。そしてまたふわりと優しく笑うんだ。どうしたら俺にもそんな笑顔を向けてくれる?最近はそればかりを考えている。茜さんの笑顔は大好きだけど、俺は神童キャプテンに向ける笑顔が欲しくてたまらない。ねえ、茜さん。俺、どうすればいい?


「はい、笑って」
「え?」

最近は誰かが近づいてきても気づかないことが多い。心ここにあらずって霧野先輩にも心配された。そのときは余計なお世話ですって言い返す気力もなくて、ただそうですねと頷いてその場を離れたような気がする。何だか記憶も曖昧だ。
俺は今目の前でカメラを構えている茜さんに全く気づかなかった。だから写真を撮られたことに気づいたのも数秒遅れてから。ボーっとしている顔を撮られたってことはきっと、ひどい顔がそのカメラのメモリーに入ったわけで、何だか情けなく思う。

「元気…ない。どうしたの?」
「いや、俺はいつも通りですよ?」
「ううん。いつもより元気ない。今日だけじゃない、昨日も」

茜さんは俺を心配してくれているのか、泣きそうな表情を浮かべてそう口にする。心配してくれるのは嬉しいけど、中途半端に優しくされるのは正直辛い。俺のこと好きなのかなって、自惚れてしまいそうだ。俺のこと、ちゃんと見ててくれたって分かっただけで嬉しくてたまらないのに。こうして心配して、優しくされたら勘違いしちゃうだろ。
きっと茜さんは只マネージャーとして部員の俺を心配してくれている。そんなの分かってる。神童キャプテンが好きなのも分かってる。けど、こうして泣きそうになるぐらい俺の心配をしてくれる茜さんを見たら、諦められない。どんなことをしてでも神童キャプテンの笑顔を俺のものにしたいって思ってしまう。駄目だって、何度も言い聞かせたはずなのに。俺の体は言うことをきいてくれずに、気づけば茜さんを自分の腕の中に閉じ込めていた。

「狩屋君…?」
「…ずっと、好き、だったんです。茜さんのこと」

俺がそう口にした瞬間、茜さんが息をのむ音がした気がした。ずっと胸にしまってた言葉は意外とすんなり口からこぼれた。茜さんに迷惑をかけたくなくて、しまってた言葉は茜さんにどう受け取られるだろう。結ばれないことは分かってる。だからせめて、これからも傍で茜さんのことを見守らせて欲しい。茜さんが好きだから。

しばらく無言が続いて、俺はゆっくりと茜さんから離れた。気づけば、それまで黙っていた茜さんはいつの間にか泣いていて、ハンカチを持っていなかった俺は指でその涙をぬぐう。すると茜さんはあのやわらかくてふわふわした、神童キャプテンのものだった笑顔を俺に向けた。驚いて言葉が出てこない俺の耳元で茜さんは俺が予想もしなかった言葉を囁いた。「私も好き」そう確かに囁いた。これは夢なんじゃないか、ってつねった頬はジンジン痛む。ああ、現実だ。

俺はそっと茜さんの手と自分の手を重ねた。


手と手を重ねて、永遠を誓った

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相互して下さったたまさんへ。ありがとうございました。


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